自分からは決して踏み込めない男
そして、八雲が来日以前に出会った女性、エリザベス・ビスランドやレオナ・バーレル夫人、ベーガンことアンネッタ・アントナ夫人との恋をいずれも一雄は「肉体を離れた精神的な恋で、文章上での恋であった」と記すのだ。
八雲は、女性から好意を寄せられたときほど、急に自分の身体の欠点を意識してしまう。そんな男だったのだ。
ここで一雄は、そんな父の恋愛観を示すエピソードとして、マルティニーク諸島滞在中に親しくなった女性の話を語っている。この女性は熱病にかかった八雲を助けた一家の娘でエラ・コートニーといい、一雄の筆によれば「黒人の血はあるが、フランス系のむしろ白人に近い美人である。アレテア・フオレイや小泉セツよりは確かに綺麗な女である」という。しかし、この女性とも八雲は深い仲にはならず「二人の親愛の度は兄弟の如き関係」にとどまった。
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