旅客機の乗客は急性放射線障害を起こすおそれ

こうして、太陽と似たような恒星で、しかもホット・ジュピターがなくても、スーパーフレアが発生することがわかりました。ならば、私たちの太陽でスーパーフレアが発生しても不思議ではありません。

「フレアの強さが10倍のものは、発生頻度が10分の1になる」という法則を適用すれば、これまでに知られている最大の太陽フレアの100倍から1000倍の強さであるスーパーフレアは、数千年に一度くらいの頻度で起こるかもしれないと柴田さんは推定しています。

もし太陽でスーパーフレアが発生したら、地球にどんな災厄がもたらされるのでしょうか。柴田さんの予想は、次のようなものです。

まず、強力な電磁波と高エネルギー粒子の襲来で、すべての人工衛星は故障し、低軌道の衛星は大気膨張の影響を受けて地球に落下するでしょう。国際宇宙ステーションの宇宙飛行士や上空を飛行中の旅客機の乗客は、急性の放射線障害を起こすおそれがあります。

そして十数時間という史上最短の時間で、コロナ質量放出のプラズマの塊が地球に到達し、大きな磁気嵐が発生します。全世界規模での大停電が起こり、テレビやインターネットも使えなくなるので、大パニックの発生も考えられます。

電源喪失によって、福島原発の事故と同じものが各国の原発で起きる可能性もあります。世界中で見事なオーロラが見られますが、その美しさに見とれる余裕はきっとないはずです。しかも、一度スーパーフレアが起きると、1年間に何度も発生すると思われるので、被害からの復旧は容易ではないでしょう。

「数千年に一度」はいつ起きるかわからない

太陽で本当にスーパーフレアが発生する可能性があるのか、その研究はまだ始まったばかりです。しかも発生頻度が数千年に一度であれば、今すぐに、必要以上に怖がることはありません。

佐藤勝彦『眠れなくなる未来の宇宙のはなし』(宝島社文庫)

ですが、柴田さんも著書の中でおっしゃっていますが、私たち日本人は「1000年に一度」という東日本大震災を経験しました。それは「これまでは起きないと信じられていた」規模の地震でもありました。ですから数千年に一度のスーパーフレアが数十年以内に起きても不思議ではなく、何の備えも必要ないとは言い切れないでしょう。

すでに現在、太陽観測衛星や世界各地の天文台が太陽の活動をモニターして、大規模フレアが発生しそうな場合には警報を発する「宇宙天気予報」の取り組みが進んでいます。柴田さんも、1994年4月に起きた太陽フレアに際して警告メールを世界中に送り、そのおかげでアメリカでは磁気嵐の発生による被害を未然に防げたという経験をされたそうです。

それまでは純粋な知的好奇心から太陽の研究をされていた柴田さんは、これをきっかけにして宇宙天気予報の研究に真剣に取り組むようになったとおっしゃっています。