「かわいそうに23歳で亡くなった」と淡々と語るツネ

ともあれ、この無名の少女・お信の存在を抜きにしては、八雲の初期像はまったく立ち上がらない。冨田旅館に滞在していた頃の八雲が、もっとも心を通わせたのはセツでも県知事の娘でもない。事蹟もあまり残らぬ少女・お信である。

桑原羊次郎『松江に於ける八雲の私生活』(山陰新報社 1953年)の中で、ツネに話を聞いた桑原は、最初からこう質問している。

「旅館滞在中にお信さんという女中がいて、八雲先生の世話をなし、八雲先生はお信さんの眼病を自費で療治せしめたと聞きますが、そのお信さんはどんな来歴の人でしたか、まだ存生ですか」