“現場主義の演出”に戸惑う社員
では、日産社員や関係者は現状をどう捉えているのか。
ここでは特定の社員の声を引用するのではなく、筆者が新車発表会や試乗会、展示会、意見交換の場を通じて得た印象を述べたい。
第一に「現場主義の演出」がある。
決算報告会を除き、経営幹部が新車や技術説明で登壇することはほとんどなく、国内営業統括者や開発者、デザイナーなど担当者が自らの専門分野について語る形式を取っている。
ブランド戦略イベントでも担当社員が登壇し、自らの言葉でメッセージを伝える。これらはマーケティング戦略であると同時に、現場主義を可視化することで社員の意識に変化をもたらす可能性がある。
一方で課題もある。
役職の実態が見えにくいのだ。カルロス・ゴーン体制で増えた横文字や長いカタカナ名称の名残りもあり、誰がどの範囲までの責任者で最終判断者かが外部には分かりにくい。
これはメディアだけでなく、社内でもなかなか実態が見えにくく、同様の声があるだろう。今後の部門再編にあたっては、社内外に分かりやすい組織構造となることが望まれる。
追浜閉鎖が招く“地域コミュニティ”の喪失
第二に「地域社会との共生」である。
象徴的なのが追浜だ。日産の中核工場(マザー工場)としての歴史が終わりを迎えるという、日産史上でも大きな出来事である。周辺地域はまさに日産城下町であり、工場のみならず部品メーカーや下請け、飲食店など広範囲に影響が及ぶ。
エスピノーサ社長は「他の製造事業として継続する可能性も検討した」とし、さまざまな選択肢を模索していると語った。従業員の配置転換についても日産九州への転属など複数案を検討中だというが、具体的な人数は明らかにしていない。
追浜に住む地元住民は、経済の打撃などから不安や怒りの声が上がっており、日産は工場跡地を売却して終わりにするのではなく、企業として社会的責任を果たすべきだという意見が多い。

