2002年にノーベル経済学賞を受けた、プリンストン大学名誉教授のダニエル・カーネマン氏の著作『ファスト&スロー』は大変興味深い。

主な論点は、脳の情報処理には速いものと遅いものがあり、これらの2つのプロセスのバランスが大切ということ。

脳の回路で言えば、速い回路の典型は、扁桃体など、情動に関わるもの。一方、大脳新皮質の情報処理は、時に論理的で緻密だが、ゆっくりとしか進まない。

例えば、林の中を歩いていて、足もとに細長いものがあったとする。扁桃体を中心とする情動の回路がまず反応し、私たちの体がすくむ。

続いて、大脳新皮質の回路が正確に働いて、その「細長いもの」が何であるかを見極める。そして、それが「蛇」だった場合には、回避行動を取る。一方、「枯れ枝」だった場合には、ほっと一息、そのまま歩き続けることになる。

ここで肝心なのは、大脳新皮質の遅いプロセスは正確だが、それでは間に合わない場合もあること。速いプロセスは不正確だが、万が一蛇だった場合、危険を逃れることができる。不正確だが速いプロセスと、正確だが遅いプロセスをうまく組み合わせることで、脳の機能を最大限に発揮することができるのである。

さて、以上の話は、日本人がなぜ英語を話せないか、どうすれば話せるかという問題に示唆を与える。

まず、母語の日本語を私たちがどのように話しているかをふり返ってみよう。文法的にどうだといちいち考えて1つひとつの表現を選んでいるわけではない。私たちの日本語を支えているのは、なんとはなしの「フィーリング」である。