「ママホテル」と「パラサイト・シングル」――現象の国際拡大
「ママホテル」とは、成人後も実家を出ず、母親が用意した“ホテル”のような快適さに身を委ねる暮らしを指す。この言葉は欧州で今、急速に拡がっている(文末の「ママホテル」度チェックリスト参照)。
ママホテル現象は、日本の社会学者・山田昌弘氏(中央大学文学部教授)が1999年に定義した「パラサイト・シングル」とほぼ重なる。経済的・精神的に豊かなまま実家暮らしを続けられるこの層は、日本独自の現象というより現代ではグローバルな先進国共通の課題となりつつある。
ハンガリーの若者研究所(Youth Research Institute)のセーケイ・レヴェンテ所長によれば「欧州文化圏では歴史的に、18〜19歳で子どもは家を出て一人暮らしを通して“オトナ”になってきた。しかし今は“家を抜け出せない”という変化が急拡大している」。若者研究所(YRI)が2023年に行った15~39歳の1000人を対象にした調査では、ハンガリーでは30歳未満の61%が親と同居中という、かつてない高さになった。
「親元を離れる年齢」は地域差も大きい。北欧や西欧などでは依然20代前半が中心だが、南欧(クロアチア、イタリア、スペイン、ギリシャ)では、現在30代前半まで上昇している。中欧・東欧のハンガリーやポーランドなどの国では北欧・西欧と南欧の間に位置する、20代後半だという。この背景には欧州内での賃金差や文化的な違いがあるようだ。
国際比較:豊かさと同居率、少子化の「複合現象」
こうした「実家同居」は経済要因だけでなく、社会構造や文化的要素と絡み合っている。山田氏が2022年に、台湾の国立台湾大学特別教授・社会学者、藍佩嘉(ラン・ペイチア)氏と行った対談では、親元同居型社会のほうが出生率が低くなるという傾向が見られるとされている。(「パラサイト・シングル」誕生から25年 nippon.com)
山田教授によると、多くの欧米の国は親から独立することが前提の社会。それに対し、日本・韓国・台湾・香港・シンガポール・イタリア・スペインは同居型社会、同時に出生率低下が顕著だという。
「国際比較をすると、米国や英国、スウェーデン、オランダのような親と同居しない国は出生率が高く、日本や韓国、台湾、香港、シンガポール、イタリア、スペインといった親と同居して経済的に豊かな国で少子化が進む、というのが私の説です」(山田昌弘教授)
藍氏は、以前は子が働き家計を支えたが、今は子自身が賃金低迷で独立できず、結婚後も親の支援が前提となったと台湾の複雑化を語る。〔山田昌弘×藍佩嘉(1)家庭:パラサイト・シングルと「多元成家」 nippon.com〕

