消費者の脳はいつもゆらいでいる

ルディー和子氏

消費者調査で一定の基準を満たしたものが発売されているはずなのに、驚くほど短期間で市場から消えていく商品は後を絶たない。

マーケティング評論家のルディー和子氏は「無意識に行動する消費者に対して、論理的な発想のマーケティングで攻めるのはとても困難だ」と断言する。

「最近の面白い実験があります。スーパーの試食でブルーベリーと黒スグリのジャムを出して、どちらが好きですかと尋ねます。消費者が『ブルーベリー』と答えたら、いったんジャムを引っ込めて5分ほど世間話をした後、黒スグリのジャムを出して、『お好きなのはこのジャムですよね。なぜこちらを選んだのですか』と聞くと、『そうそう、これなのよ』と言って理由を説明する。ジャムがすり替わったことに気づいた人はたった2割にすぎなかったのです」

状況が変われば簡単に判断を変えるのだから、アンケート調査が当たらないのもうなずける。「生物物理学者は、人間の脳はいろんな状況を生き抜くために融通性が高く、いつもゆらいでいると言う。意識的に建前を答えたりウソをつく人もいますが、本人も気づかない無意識のところで判断をしていることがほとんどなので厄介なのです」。

ゆらぐ消費者を相手にマーケッターたちは日々翻弄されているのだ。

花王のグローバルマーケティング開発部門の理事、宮脇賢治氏は17年間マーケティングに携わってきたベテランだ。それでも、「いまも昔も消費者心理をつかむのは難しい」と語る。同社がマーケティングで重要視するのが「観察と対話」だ。実際に家庭を訪問し、商品の使われ方や、どうしてそう使うかなどをじっくりと見聞きする手法である。アンケート調査だけよりずっと確度が上がる。しかしそれでも当たらないケースはある。宮脇氏が例として挙げるのが洗剤「アタックNeo」だ。

自信作であり、調査段階で大ヒット間違いなしと感触を得ながら、期待したほどの結果は出ていない。

「ほんの少量で、すすぎも1回でOK。節水、節電、時間短縮、ゴミも少ない画期的な洗剤です。消費者に使ってもらっても『これはいい』と反応がよかった。模擬店舗をつくってアタックNeoと他の洗剤を並べても断然優勢でした。これは市場の半分を占めるかもしれないと思わせるほどでした」