年齢とともに心身の不調が増えるのはなぜか。内科医の梶尚志さんは「更年期の不調には“隠れ酸欠”が関係しているケースが多い。健康診断で異常が見つからなくても安心しないほうがいい」という――。

※本稿は、梶尚志『更年期の不調の原因は栄養不足が9割』(あさ出版)の一部を抜粋・再編集したものです。

だるさの原因は「見えない酸欠」

鉄は、体にとって欠かせないミネラルのひとつです。鉄というと、「食事からとるのが難しそう」「レバーを食べなきゃいけないんでしょ?」「貧血の人が飲むサプリ」といったイメージがあるかもしれません。

でも、鉄は年齢を問わずすべての女性にとって大切な栄養素であり、とくに更年期の不調とも深く関わっています。

鉄は、体のすみずみに酸素を届けるために欠かせない栄養素です。体の中では、鉄が赤血球の中にある「ヘモグロビン」の重要な構成成分で、このヘモグロビンが、肺で取り込んだ酸素を全身に運んでいます。

つまり、鉄が足りなくなると、体の中が酸欠のような状態になってしまうのです。酸素が行きわたらなければ、内臓の機能が十分に働くことができず、その結果、だるさの原因にもなります。また脳の酸欠が頭痛、めまいを引き起こし、その他動悸、冷え、息切れなど、さまざまな不調が起こりやすくなります。

体のエネルギーの元となる「ATP(アデノシン三リン酸)」をつくるときにも鉄が必要です。鉄がしっかり足りていれば、ATPの産生がスムーズに行われ、疲れにくい体を保つことができます。

健康診断で安心してはいけない

健康診断で「貧血ではありません」と言われたとしても、体の中に蓄えられている鉄が足りていないことがあります。

健康診断結果
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※写真はイメージです

この蓄えられている鉄のことを“貯蔵鉄”といい、フェリチンというタンパク質の値(血清フェリチン濃度)を調べることで、ある程度わかります。

ヘモグロビンの数値が正常でも、フェリチン値が低ければ「隠れ貧血」の可能性があるのです。

女性は、思春期に月経が始まってから体の成長に鉄が使われ、更に妊娠・出産・授乳などを通じて、長いあいだ鉄を失い続けています。

とくに月経時の出血が多い人や、過度なダイエットをしている人、子宮筋腫による過多月経がある人は、鉄の喪失がさらに多くなります。

でも、多くの方が「自分は鉄不足かもしれない」ということに気づいていません。なぜなら貧血の状態に慣れてしまって、不調があっても、それが鉄不足によるものだとは思わないまま過ごしている方が少なくないのです。

更年期になると、閉経によって出血はなくなりますが、それまでに鉄をしっかり蓄えてこなかった場合、その影響が閉経後もさまざまな形であらわれやすくなります。

私のクリニックでは、更年期を迎える前の段階から鉄の補充を始め、年齢に応じたケアを行っています。