参政党が掲げる「日本人ファースト」は、なぜ人々の心をつかんだのか。国際政治学者の三牧聖子さんは「生活苦に直面する『忘れられた人々』に訴える戦略が奏功した。しかし、「日本人ファースト」は人々の苦境を解決するのか疑問だ。むしろ真の問題である経済格差の問題から目を逸らす、政治家にとって都合のいい言葉になってはいないか」という――。

大惨敗の石破自民、大躍進の神谷参政

7月の参院選で自民党は大きく議席を減らし、対照的に、国民民主党や参政党などの新興政党が躍進した。

とりわけ注目を集めたのが14議席を獲得した参政党の躍進だ。2020年の結党時には国会議員が一人もおらず、神谷宗幣代表の全国的な知名度も乏しかったが、今回の参院選で議席を積み上げ、比例選の得票でも自民党、国民民主党に次ぐ742万票を獲得した。

自民党の凋落、新興政党の台頭は今後も続きそうだ。参院選後も続投への意欲を示してきた石破茂首相だが、党内で強まる退陣要求に耐えることができず、続投を断念。今月7日に自民党総裁の辞任を表明した。

自民党は、10月4日に国会議員の投票を通じて新総裁を選出する予定だが、石破首相が辞任を表明した当日のテレビの視聴者アンケートで、「新総裁に代わる自民党に期待できる」と回答した人が7%、「期待できない」と回答した人が93%という結果も出るなど、前途多難の模様だ(※1)

対照的に9月に入ってからの最新のNHK世論調査で、参政党への支持率は6.3%となり、自民党(27.9%)に次ぐ支持率を記録した(※2)

記者会見する参政党の神谷宗幣代表=2025年7月22日、国会内
写真=時事通信フォト
記者会見する参政党の神谷宗幣代表=2025年7月22日、国会内

神谷代表は、次の衆議院選挙では小選挙区と比例代表をあわせて100人以上の候補者を擁立し、30から40程度の議席獲得を目指す考えを示している。

なぜ世界中で与党が負けたのか

既成政党の凋落と新興政党の台頭は、日本のみに見られる現象ではない。2024年は、世界各国で国政選挙が行われた「選挙イヤー」だったが、多くの主要国で与党は大きく議席を減らした。

米大統領選では、民主党のジョー・バイデンの後継として再選を目指したカマラ・ハリスが、ドナルド・トランプに敗北した。インドや韓国でも与党が敗北し、ヨーロッパでも、イギリス、フランス、ベルギー、オーストリアなどの議会選挙で、与党が相次いで敗北した。ドイツでは、2025年2月の連邦選挙で極右政党「ドイツのための選択肢(AfD)」が第2党に浮上した。

世界的な与党敗北・野党躍進の背景には、中間層の生活苦がある。ウクライナ戦争や気候変動による災害の深刻化、エネルギー・食料・住宅の価格上昇といった要因により、生活費の負担が世界的に急増している。多くの国で、庶民の生活苦に対して無策な現政権への批判が高まり、有権者は不満を投票行動で表現した。

もっとも先の参院選で野党第一党の立憲民主党が改選22議席から横ばいで伸び悩んだことが示すように、野党のすべてに人々の期待が寄せられたわけではない。現在の政治では、「右派」か「左派」かよりも、「既成政党」か「新興政党」かの方がより重要となっている。