大企業の人事の方に教えてもらったことがあるのですが、これまでの日本の企業では従来、謙虚で、目立たず、本音を押し殺して責任をまっとうするタイプが特に重用される傾向がありました。でもこれからの変化の激しい社会では、「目立つ力」を付けた方が絶対に得です。確かに、目立つことを極端に怖がる人もいます。何か人と同じでないことをすると、叩かれる。何か意見を言うと協調性がないと思われる。挑戦して失敗したら罰をくらう。いわゆる「減点主義」「事なかれ主義」の考え方です。そしてそこにはこんな考えが基本にあることがあります。

「きっと誰かが、自分を見ていてくれている」

一般社員のレベルならそうかもしれません。上司にとっても部下の可能性を探すことが仕事のひとつともいえるからです。ただ、上級管理職になってまで「事なかれ」を美徳だと考えていると、変化が激しい世界ではリーダーとしては弱いのです。サイバーエージェントのように若いメンバーも多く、新しい産業の場合や新規事業にとりくまないといけないビジネスの場合はなおさらです。管理職が自分の意志を表明できず、目立てていないなら、部下も不安視になるでしょう。

目立たないとどうなるか。バッシング(叩かれる)のではなく、パッシング(通過)されてしまうのです。周りは抜擢されたり新しい仕事を創りだしてどんどん動いているのに、自分だけが流されてしまうわけです。

最初から成果も出していないのに目立とうとする「空回り目立ち」や、上司として恐怖政治のような厳しい体制を敷いて「コワ目立ち」をするのはもちろん避けたいですが、部下やメンバー、周囲から見て「おっ」と思わせる存在感を放つことも、部長クラスには必要な力です。他部署からも一目おかれているかっこいい上司のもとで働くのは士気も上がるというものです。

上司は「すごい」「カッコイイ」と思われてナンボ

曽山哲人氏
曽山哲人氏

でも、誤解しないでください。「存在感がある」「目立つ」というのは、派手であることとはあくまで別です。物静かな人でも存在感は出せます。要は「キャラクター」の問題です。何か一目おかれる要素があればそれでよいのです。

直接上司と関われない多くの部下たちにとっては、上司の醸し出す雰囲気は安心感にも不安感にもなりえます。特に他部署や社外から入る評判情報はメンバーの心理にすぐに反映されていきます。「○○さんって静かだけどブログとか日報の発信は熱くていいよね」と他部署の同期から褒められればうれしいでしょうし、表彰などでその部長が表彰されれば、それがないよりはずっと誇らしく思えるものです。

自分の上司はすごい、かっこいい、と思われてナンボです。仕事で存在感を出すことを恐れず、むしろ存在感を出せていなければ自分なりに努力できるとよいでしょう。

この「存在感」という言葉は測定しにくい言葉ですが、要は組織が盛り上がっていれば問題ありません。部長クラスの存在感が薄い場合には、メンバーも大体その雰囲気が伝染していて、なんとなくしらけたりしていることがあります。この点をチェックしてみるとよいと思います。

サイバーエージェントでは「採用・育成・活性化」という人事のキーワードがありますが、その一方で「しらけマネジメント」「しらけの排除」などと呼んでメンバーの感情の動きにできるかぎり敏感でいるように配慮しています。そのために「部署の懇親会費用の支援」や役員がメンバーと食事に行く機会を増やすなど、いろいろな角度からメンバーが盛り上がる場面やしらけてしまう場面は何なのかを吸い上げる仕組みをつくっています。こうして現場の声を拾っていくと、上司が思っている以上に部下にとって「上司の存在感」が大事なのかを痛感します。

※この特別連載では、プレジデント社の新刊『サイバーエージェント流 自己成長する意思表明の仕方』(7月15日発売)のエッセンスを<全5回>でお届けします。