広陵高(広島市)の野球部内で起きた暴力行為問題を巡る騒動が続いている。作家・スポーツライターの小林信也さんは「広陵高校だけでなく高校野球には長年の慣習にしがみつき、面倒を避けようとする姿勢がある。本気で子どもたちの成長を願うなら、今回の騒動をきっかけに大胆な改革をするべきだ」という――。
広陵の出場辞退を受け、報道陣の取材に応じる日本高校野球連盟の宝馨会長(右端)と大会会長の朝日新聞社・角田克社長(右から2人目)=2025年8月10日、兵庫県西宮市
写真=時事通信フォト
広陵の出場辞退を受け、報道陣の取材に応じる日本高校野球連盟の宝馨会長(右端)と大会会長の朝日新聞社・角田克社長(右から2人目)=2025年8月10日、兵庫県西宮市

広陵高校の対応に見る腑に落ちない点

まだそんなことをやっているのか――。

今回の広陵高校の件を耳にして、まず心に浮かんだのはこの一言でした。強豪校の野球部といえば、常に規律正しく、教育的にも模範的であるはずだという幻想がありますが、実際には旧態依然とした体質が根強く残っている。残念ながら、それが現実です。

私は30年以上前から、高校野球に潜む問題点を指摘し続けてきました。しかし、その間に何が変わったでしょうか。髪型の自由化ひとつとっても、つい数年前に「長髪の球児」がニュースになったほどです。笑ってしまうくらい遅れている。子どもたちの青春の一時期に、そんなことで縛りをかける必要があるのか、と心底思います。小さな改善はあっても、肝心な部分は依然として変わっていない。今回の件は、まさにその「変わらなさ」を凝縮した象徴のように見えます。

広陵高校の一連の対応を見ていると、どうにも腑に落ちない点が多くあります。「(1月の暴力事案に関与した部員への)処分は済んでいるから甲子園に出場しても問題ない」という理屈を掲げながら戦ったのに、なぜ勝った後で辞退に至ったのか。説明が一貫していません。そもそも、処分の根拠となった学校の報告書にはどこまで真実性があるのか、これも不明です。

広陵高等学校
広陵高等学校(写真=Taisyo/CC-BY-3.0/Wikimedia Commons

朝日新聞やNHKが守ってくれる

また出場辞退という学校の決定に、監督や選手が唯々諾々と従っているように見える点にも違和感を覚えます。処分済みとされている事案以外の問題も含め、いま取りざたされている出来事が実際に起きていたことを、そして被害者への救済措置なども含めて完全解決に至っていないことを、当事者である彼ら自身が暗に認めているように受け取れます。

学校側の動きを改めて振り返ってみると、「甲子園に出場しさえすれば守ってもらえる」という甘い見立てがあったことが透けて見えます。朝日新聞やNHKをはじめとした大手メディアが後ろ盾となり、外部からの批判もかき消してくれる。そういう「出場すれば勝ち」という甘い見立てが、学校側や監督に働いていたのではないでしょうか。

多少の問題を抱えていても「甲子園に出場しさえすれば許される」という認識がはびこってしまう要因のひとつに、高野連とメディアの関係があります。大会会長が朝日新聞の社長、副会長が高野連会長という図式は、考えてみれば奇妙なものです。教育をうたう大会のトップが新聞社という事業会社の経営者なのですから、矛盾以外の何ものでもないでしょう。その結果、朝日新聞やNHKを中心とする大手メディアは、甲子園を美化する報道を大量に流し続ける一方、ネガティブな情報を封じ込めてきました。