「砂漠からの使者」が教えてくれたこと

ハリネズミのハ郎。エサはキャットフード。(撮影=前野ウルド浩太郎)

ハ郎はエサをおねだりしに自分にすり寄ってくるのですが、悲しいかな、そのハリが邪魔をして抱きしめてあげることができません。代わりにサンダルで軽くタッチすると喜びます。きっとハ郎は誰からも抱きしめてもらえずに寂しい人生を歩んできたので、こんなにも誰かにスキンシップしてもらえるのは初めてで刺激的なのでしょう。「なぁ、ハ郎。オレも一人なんだ」。寂しいもの同士、すっかり仲良くなりました。

ゴミダマの観察を通して、自然界というところは、実験室では想定できないことがたくさん起きていることを改めて思い知らされました。

今回の出来事を研究所のババ所長に報告したところ、所長からクイズを出されました。

ババ所長「問題です。電線に小鳥が5羽止まっています。お前の銃には弾が3発。さぁ、何匹仕留められますか?」

前野「3羽ッスよね?」

ババ所長「ノン! 正解は1羽。他の鳥は1発目の銃声を聞いたら逃げるだろ。いいか、コータロー。これが自然だ。自然は単なる数学じゃ説明できないのだよ。ガッハッハ」

前野「あぁぁ、所長ぉぉ」

以前の自分も含め、大勢の若い研究者たちはパソコンの前で、オフィスの中で研究しています。自然を理解せずに生物学を勉強することがどれだけ多くの危険に満ちているのか、気をつけなければならないと強く思いました。ハ郎は私に自然の大切さを教えに来てくれた砂漠からの使者だったのです。

そして、私は夜中に2時間おきに起きる、ハ郎をサンダルで愛撫する、といった地味な困難を乗り越え、ゴミダマが夜行性であることを実証するデータの収集に成功し、夜にゴミダマを数えなければ殺虫剤による環境汚染の程度を評価できないことを明らかにしたのです。

バッタ博士からの心からのお願い

新発見は論文発表するまでは公表を控えるのが研究者の常識。なぜなら、誰かに先に同じ内容で論文発表されると、手柄は全てもっていかれ、こっちが二番煎じとなり、その後の論文発表が危ぶまれるからです。今回皆様にご紹介したゴミダマの夜行性についての研究内容は、実はこの記事が掲載されるころには論文になっているだろうと予想していたのですが、某昆虫学会誌に掲載を却下され、まだ論文になっていません。

つまり、今このときをもって私の新発見は、内臓丸出し状態の、誰かにパクられる可能性が高い極めて危険な状況に陥ってしまったのです。これも自分の実力不足が招いた結果なのですが、貴方が善意の塊ならば、どうかこの発見を論文発表しないでほしいのです。しかし、貴方が「バッタ博士のなけなしの新発見をパクった残虐非道な人間」というレッテルを張られても平気ならどうぞご自由に。

●次回予告
バッタ博士の職場モーリタニアは、かつてパリ・ダカールラリーが開催されていた地。博士の相棒ティジャニが駆るマシンは、今日もバッタを求め砂漠を爆走する。「バッタ博士、バッタの大群が現れました!」。お呼びとあらば、即参上! 行くでぇティジャニ! はいなあんさん! ところで二人は何語で話しているのか。意思の疎通はどうやって可能になったのか。秘められたテーマは「職場のコミュニケーション」。次回《相棒は「音速の貴公子」》、乞うご期待(8月3日更新予定)。

■バッタ博士がハ郎と戯れている動画はこちらから
《じゃれるハリネズミ》
https://www.youtube.com/watch?v=b-Ty7p6tW1A

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