また、山口さんは自分の性格をよく研究して、それに合った学習方法を実践している。先に紹介した文法書のやり直しも、「ある年齢を過ぎたら、英語をいっぱい聞いても上達しません。理屈とか文法でロジカルに覚えるしかないんです」と割り切っている。

「自分が理系ということもあり、文法というロジックから入ると非常にとっつきやすい。ここまで覚えればいいという範囲も見えるし、ロジックどおりに英語が使えたときが快感なんですよ」

そしてその原動力になっているのが、英語は趣味とか教養のためではなく、「カネを稼ぐ手段であり、止まったら死ぬ」という徹底した追い込みだ。

それでもモチベーションが下がったことはある。米国人との会食で会話がうまくかみ合わず、がっくりしたのだ。それでも、日常生活に学習が溶け込んでいたため、いわば「惰性で」勉強を続けることができた。

山口流のもう1つのポイントは完璧を目指さないこと。今続けられることを淡々と続け、うまくいかなくても深く落ち込まない。何より山口さんは明るい。英会話のクラスはグループレッスンだが、「私が一番しゃべっている。かなりうざいおじさんやと思います」と笑うように、物おじせず、恥ずかしがらずにしゃべる機会を生かしている。

実際、その甲斐あって、業務に焦りを感じていた頃と比べて、格段に英語力が伸び、「海外拠点の人間と接するときも、緊張感はなくなりました。また、コミュニケーションできる範囲が広がり、人脈がグローバルにぐっと広がりました」。かつて「このままでは仕事にならない」と悟った自分は、すでに過去のものとなった。