『化身』『失楽園』『愛の流刑地』の三部作で日本の景気がわかる

まずは、日本人論。遡れば新渡戸稲造『武士道』(1899年)や岡倉天心『茶の本』(1906年)まで入ってくるわけですが、『菊と刀』(48年)、『日本人とユダヤ人』(70年)から『「甘え」の構造』(71年)、『ジャパン・アズ・ナンバーワン』(79年)とキリがない。最近では『国家の品格』(05年)もそうですね。傾向としては、外国と比べて日本の文化はこれだけ独特で素晴らしい!

という内容がウケる。その一方で、これはコンプレックスの裏返しとも考えられるけど、なぜか外国人著者に悪く言われて叱られるのも大好き(笑)。

ふたつ目は、「女大学」の流れ。つまり、「女三界に家なし」「嫁しては夫に従い、老いては子に従う」とかいう女子教育のための虎の巻。江戸時代から脈々と続いている人気分野です。伊藤整『女性に関する12章』(54年)や『女の器量はことばしだい』(84年)、そして、坂東眞理子『女性の品格』(06年)。坂東さんはかつて男女共同参画事業のど真ん中にいた人だから、さすがに女性は家にいろとは言わないけど、敬語をちゃんと使えとか礼状はきちんと書けとか、結局は女のたしなみ論。求められるものは100年変わってないんですよ。

3つ目は、現代の若者像モノ。『太陽の季節』や『限りなく透明に近いブルー』(76年)、『なんとなく、クリスタル』(81年)、『蹴りたい背中』(03年)は、みんな20歳そこそこの作家が書いた作品。大人たちは「なんじゃ今どきの若者は!」と眉をひそめるんですが、気にもなるので買っちゃう(笑)。

勉強モノも根強い。『知的生産の技術』(69年)から、『「超」勉強法』(96年)、『頭がいい人、悪い人の話し方』(04年)にいたるビジネス書。『性生活の知恵』(60年)、『HOWTOSEX』(71年)、『サティスファクション』(02年)などセックスだってお勉強。日頃使っている言葉も『日本語練習帳』(99年)、『声に出して読みたい日本語』(01年)で学ぶし、ほかにも整理整頓術、健康法など似たりよったりな本が再生産されている。

最後は純愛モノ。『愛と死をみつめて』(64年)、『ノルウェイの森』(87年)、『世界の中心で、愛をさけぶ』(03年)と、絶えず需要があるジャンルです。

不倫も屈折した純愛とすれば、このジャンル当代きっての書き手は、渡辺淳一先生で決まりでしょう。『化身』(86年)、『失楽園』(97年)、『愛の流刑地』(06年)の3作は、ほぼ10年おきに日本経済新聞に連載され、これを読めば、景気と社会風俗の流れがわかってしまうというお買い得な作品群。『化身』は金持ちの文芸評論家と銀座のおねえさんの話で、海外旅行したり、代官山にブティックを開いてあげたりと、それこそバブリーな世界。『失楽園』になると、お金の使い方はかなり地味になって、旅行はもっぱら国内。でも、バブルの残り香はあった。で、最後の『愛の流刑地』はもう、とことん貧乏ったらしい。男の安アパートで逢瀬を重ねるだけで、旅行もなし、プレゼントもなし。茶も出さなきゃ飯も食わせない(笑)。まさにワーキングプア不倫小説です。