『トットちゃん』から『五体不満足』へ連なる
児童書ブームの未来は……

ベストセラーの5つのパターンを上げましたが、最終的にウケる秘訣は「ゆるい、明るい、衛生無害!」。戦後最大のベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』(81年)だってそう。90年代後半以降は、さらにその傾向が強くなってきた。たとえば、全七巻で2000万部以上売れた『ハリー・ポッター』シリーズ、単行本と文庫で500万部以上売れて、教科書にも収録された『五体不満足』、そして『世界がもし100人の村だったら』。でかい文字で、デザインは絵本風、漢字には総ルビ。中身も外見も児童書風のつくりが日本中を覆い尽くしました。

フィクションでは単純に泣ける話がもてはやされるし、ビジネス書や「女大学」本にしても、素直で害のないものが求められる。結局、読者は新しいことを知るよりも、知っていることを確認したい。本を読んで安心感を得たいんです。

本らしい本が売れなくなったのは、若い人が本を読まないからだともいわれます。でも、それは嘘。統計的に日本人は年齢が上がるほど読まなくなる。実は、一番熱心なのは小学生。「朝読書」という毎朝10分間ずつ読書する習慣を多くの小学校が取り入れたから。その成果が1カ月10冊。これってすごい量ですよ。

出版不況と言われて久しいですが、リーマンショックがそれに拍車をかけています。でも、「ピンチはチャンス」でもある。読書好きの小学生が成長していって、どんなベストセラーをつくっていくのか。興味深いところですね。

(構成=小檜山想 撮影=若林憲司・市来朋久)