今や、残業するほど仕事ができないと思われる時代。限られた時間で最大の成果を出すには──。経営トップ、心臓外科医、3つ星シェフ……斯界のプロにそのテクニックを聞いた。

30分の昼寝で頭がすっきり

日本の心臓外科医でトップクラスの手術数を誇るのが、埼玉医科大学国際医療センター心臓血管外科の新浪博士教授だ。年間の執刀数は300例を超えている。

「世界に出れば標準的な数ですよ」と新浪医師は謙遜するが、日本の心臓外科医の平均が年間30例ほどなので、その10倍以上は突出した手術数だ。

埼玉医科大学国際医療センター 心臓血管外科教授 新浪博士氏

極めてデリケートな心臓手術を数時間、ときには10時間以上にわたって行うには大変な集中力が必要だろう。しかも、1日に1度しか手術しない外科医も多いなか、新浪医師は必要とあらば2度、3度の手術を平然とこなす。その疲労度は相当なものだと想像できるが、どの手術も集中力を切らすことができない大事なものばかり。彼の集中するための秘策は、なんなのだろうか。

1日数回の手術で集中力を維持する秘策は、「昼寝」だ。

「先の手術が終わって自分の部屋に戻り、ソファに座ってお茶や食事をしていると知らないうちに寝ています。ふと気がつくと30分から1時間過ぎていて、頭がすっきりしています」

手術と手術の間に少し寝るという方法は、新浪医師が順天堂大学の助教授時代に師事した天野篤氏から直々に伝授されたのだという。

「天野先生は、手術と手術の合間に少しでも暇があったら寝たほうがいいよ、とアドバイスしてくれました。天野先生自身も寝るのですが、みんなのいるところで寝るから誰もリラックスできない(笑)。だから私は自分の部屋に戻って寝るようにしています」

それにしても、すぐに寝られるというのは一つの才能だろう。昼寝だけでなく、夜の寝つきもすこぶるいいそうだ。そんな話を実兄でサントリーホールディングス社長の新浪剛史氏にするととてもうらやましがられるという。

「彼はよく『どうやったら寝られる?』と聞きます。逆に、どうして寝られないのかわかりませんね。寝られないならその時間をもらいたいくらいです(笑)」