親はかかわるべきか問題

もう一つ、近年に特有の論点として、親が子どもの就職活動にどうかかわるべきかというものがあります。この論点を重点的に扱った著作が、田宮寛之さんの『親子で勝つ就活』です。

同書の冒頭は「就活とは子育て最終決戦」だとする、激しい言及から始まります(3p)。「いい大学(たとえ東大でも)に入学しても、就職に失敗すれば子育て失敗なのです。希望通りの就職ができて初めて子育て成功と言えるのです」(3p)というのです。就職活動をする学生はもう20歳を過ぎた大人であるため、「過干渉はよくない」が「全く関知しないのは、もっとよくない」、現代は「就活には親の支援が必要な時代」なのだ、として読者である親を煽って書き出されています(3-5p)。

中身は、就職市場の変化によって、親世代の経験はもはや役に立たないというトピックから始まります。金融業界ならば安定している、公務員ならば間違いない、大手企業ならば、といった考えはもはや通用しないのだ、というわけです。また、親世代の状況と違うことをよく理解して、間違っても「『あなたは○○大学なのに、何で内定が取れないの?』などと言ってはいけません」(35p)という言及もあります。同書の前半ではそのような、親世代と子ども世代で大きく違う、今日の就職状況の説明にあてられています。

同書で興味深いのは、こうした状況を踏まえて、親に何ができるのかを論じている箇所です。「子どもに自信をつけさせるという明確な目標のもとに資格を取らせるというのもいいでしょう」(23p)、「お子さんが筆記試験対策をしているかどうか、たまにチェックしてください」(45p)、「コネで即入社は無理でも、子どもに多くの社会人を紹介するということにコネを活用しましょう」(54p)、その場合は「会ってくれた人に対してお子さんから手紙を出させるなどお礼のあいさつをさせましょう」(55p)、「親は子どもに就活費用を十分に与えよう」(56p)、「子どもが出掛ける時に服装や髪形をチェックしてあげてください」(59p)、「子どもが企業の言うことを真に受けて私服で出掛けようとしたら、注意してリクルートスーツに着替えさせましょう」(61p)、等々。「親は前面に出すぎずにサポートしよう」(66p)とも述べられているのですが、ここまで挙げた例について、既にかなり出すぎているのではないかと思われる方もいるかもしれません。

しかし今挙げたものはまだ序の口です。この後には、次のようなトピックが続きます。

「会社説明会が続いて疲れがたまっている時に食べさせたい『疲労回復料理』」(68p)

「エントリーシート書きで寝不足が続いているときに食べさせたい『免疫力向上レシピ』」(70p)

「面接の前日に食べさせたい『緊張をとくリラックス料理』」(72p)

「面接や筆記試験に打ち勝つための『健脳食料理』」(74p)

さらに、キャリアセンターやハローワーク使えることを教えよう、ブラック企業をチェックしよう、就職活動が解禁になるまでの時間を有効に活用させよう、平均勤続年数や有給消化の平均をチェックしよう、女性社員の割合や既婚率をチェックしよう、今後の成長企業・業界を見極めよう、とトピックはさらに続いていきます。

こうした親の「支援」については、対策書の間で見解が割れています。たとえば高瀬文人さんと坂田二郎さんの『1点差で勝ち抜く就活術』では、親が子どもの就職活動にかかわっているということについて、親子間のコミュニケーションが取れているとしてプラスにみるか、親に相談することを主体性のなさとマイナスにみるか、高瀬さんと坂田さんの間で意見が割れたと述べられています(100p)。ここまでの記事をみて、田宮さんの著作に書かれている内容について、明らかにこれは「過干渉」ではないかと思われた方もいるかもしれません。こうした親の行動が、逆に子どもにプレッシャーを与えてしまうのではないか、と。しかしこの論点に決着は未だついておらず(というより、つくはずもなく)、推奨と批判の双方がかみ合うことのないままに発され続けています。