テレビ放映された訪問介護のリアル

2月8日、日本海側は記録的な大雪に見舞われたが、その中で訪問看護の現実を放映したテレビ朝日系ANNニュースが話題になった。大雪に見舞われた新潟県上越市で一人暮らしをする80代男性は1日の大半をベッド上で過ごす。テレビカメラがその自宅に訪問する看護師に同行し、「どんなに降っても(看護に)行く」と取材に応じていたが、「こういう大雪ならば休んでも良いのでは。現役世代の命は、要介護高齢者より優先されるべき」といったコメントがSNSでは相次いだ。

在宅医療介護は患者の各自宅を訪問するため、どうしても非効率的になり、要介護者からセクハラ・暴言・暴力などを受けることもある。2022年に、埼玉県ふじみ野市で起きた訪問診療医師の射殺・立てこもり事件は多くの人の記憶に残っている。同じ介護職なら施設介護が選ばれ、訪問介護の仕事が敬遠されがちなのは理解できる。

嵐を呼ぶ上野千鶴子氏インタビュー

このように問題を抱える介護の現場だが、雑誌『AERA』2024年12月23日号に掲載された、フェミニストで東京大学名誉教授の上野千鶴子氏のインタビュー記事がSNSで物議を醸した。

上野千鶴子さん
写真=共同通信社

<私たち団塊の世代は物わかりのよい老人にはなりません。暮らしを管理されたくない、老人ホームに入りたくない、子どもだましのレクリエーションやおためごかしの作業はやりたくない、他者に自分のことを決めてほしくない、これが私たちです。上の世代のように家族の言いなりにはなりません>

施設介護を拒否し、自宅での公費介護を要求したことに対して、SNSでは「自費でやって下さい。他人の金を使ってこんなこと言って呆れる」など、給料天引きで社会保険料を毎月支払っている現役世代からの反発は強かった。

上野氏は「AI介護もバカヤロー!」

上野千鶴子、髙口光子『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(集英社新書)
上野千鶴子、髙口光子『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(集英社新書)

上野氏は2023年10月発刊の『「おひとりさまの老後」が危ない! 介護の転換期に立ち向かう』(共著・集英社新書)の中でも、こう書いている。

<特にテクノロジー系の人たちが、「これからはAI介護です」とかって言うのを聞くと、バカヤローと思う。(中略)保育についてはAI化なんて誰一人言わないのに、年寄りについてはこんなに簡単に言うのは(中略)年寄りには人格がないとすら思っている>

在宅を含む介護サービスの現状維持を強く求めた。上野氏はYouTubeでも「訪問介護報酬引き下げ/サービス縮小」に苦言を呈しており、コメント欄では同世代女性の絶大な支持を集めていた。しかしながら、「誰が支払うか」についてはほとんど触れていない。

たかまつなな氏が大炎上したワケ

1月24日、厚労省の「年金改革関連法案」の概要が自民党に提示され、「厚生年金保険料の上限引き上げ」「2027年9月の開始を目指す方針」が公表された。SNSでは「また現役世代を苦しめる気なのか」「事実上の増税だ……厚労省だけで決められる保険料は消費税よりタチが悪い」など、反発や疑問の声が集まった。

そこで、年金部会の最年少委員として「賛成」したのが、元NHK職員でお笑いジャーナリスト(笑下村塾代表)のたかまつなな氏だった。「保険料の負担は増えますが、将来の年金の受給額が増えて、老後の生活にとってはプラスです。個人の損得だけではなく、社会のためになるかという点で議論が加速してほしいです」などと厚労省の公式見解受け売りの意見をXで発信し、大炎上した。社会のため、よりも、自分のことで精いっぱいで「負担増」を受け入れがたい若い世代から猛反発をくらった形だ。