最後の5冊は「タテヨコ思考」を実践するための本。昔を知り(タテ)、世界を知る(ヨコ)ことで、広い視野を獲得したい。日本にとって影響の大きい中国とアメリカについて知るには『上海』と『アメリカのデモクラシー』。また、東西の古典の代表として『韓非子』と『ニコマコス倫理学』を挙げた。

古典については、岩波文庫のラインアップがお勧めだ。まずは薄くて読みやすそうな本から入り、そこから関心を広げていこう。古典を読むには解説があると理解の助けになる。ここには挙げていないが、その際には岩波書店の『書物誕生』シリーズ(全30巻)をひもとくとよいだろう。

『上海』田島英一/PHP新書
上海が90年代に急成長したのはなぜか。中国社会の異端的存在として発展してきた街と人々の気質を読み解く。日本と関係の深い中国の今の姿を知る一助に。

『アメリカのデモクラシー』アレクシス・トクヴィル/岩波文庫
19世紀のフランスの思想家が、アメリカ民主政治の形成過程と統治機構の分析を通じて、デモクラシーの長所・短所を考察。民主主義を論じた古典的名著。

『想像の共同体』ベネディクト・アンダーソン/NTT出版
「ナショナリズム」は想像の産物。国家はそれを制度化した、いわば「想像の共同体」であると指摘。国民国家とは何かを勉強するうえで欠かせない新古典。

『韓非子』韓非/岩波文庫
わかりやすい説話から教訓を引き出し、権力の扱い方や法による統治の重要性を説いた中国の古典。愚かで賢く、ずるくてかわいい人間の本質を教えてくれる。

『ニコマコス倫理学』アリストテレス/岩波文庫
人生の目的は「幸福」、すなわち「よく生きること」であると規定し倫理学を確立した古代ギリシャの名著。西洋思想らしいロジカルシンキングを体験できる。

最後に、私の本の探し方を紹介しよう。大きな書店へ行って読みたい本を探すのが本選びの王道ではあるが、時間がなくて書店に足を運べないときもある。そんなときは新聞の書評欄を活用する。大学教授など名のある文化人が実名で書くため、自分の恥になるような本を選ぶはずはないからだ。また、取り上げる本も偏りがなく公平だ。実際、ここ4~5年、新聞の書評欄で紹介されて読んだ本に、はずれはひとつもなかった。

ライフネット生命保険社長 出口治明(でぐち・はるあき)

1948年生まれ。京都大学法学部卒業後、72年に日本生命保険入社。2006年、ネットライフ企画(現ライフネット生命保険)設立。
(構成=面澤淳市 撮影=大沢尚芳)
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