「圧倒的に長すぎる」からいい
箱根駅伝の優勝タイムは、往路・復路それぞれ5時間20分前後。日本テレビ系での放送時間は往路・復路それぞれ7時間を超える。「20km超の各区間を10人が走る」という大会形式も含め、「なぜ走っているだけの番組をそんなに長い時間見ていられるのか」「普通の駅伝やマラソンのほうが見やすいのではないか」と感じる人も少なくないだろう。
実際、「学生三大駅伝」の出雲駅伝は6区間45.1km、全国大学駅伝は8区間106.8km。社会人に目を向けても、全日本実業団対抗駅伝(ニューイヤー駅伝)は7区間100.0kmであり、箱根駅伝の10区間217.1kmが圧倒的な長さであることは明白だ。
この「圧倒的に長すぎる」ことが強烈な支持につながっている。他とは比べられないほど長すぎるから、技術や体力だけでなく、団結力や部の伝統などの総合力が求められるとともに、ドラマティックな出来事が起きやすい。
特にテレビ視聴者を引きつけているのがアクシデント。1人20km超を走るため、10人の中で誰か1人でも不調の選手がいると順位は大幅に下がってしまう。なかでも視聴者の感情移入を誘っているのは“繰り上げスタート”の悲劇。
優勝争いと同じくらい盛り上がる
往路1~2区間の鶴見中継所と2~3区間の戸塚中継所では先頭走者から10分、3~4区間の平塚中継所と4~5区間の小田原中継所では先頭走者から15分。復路すべての中継所で先頭走者から20分遅れたチームは、別のタスキを使って自動スタートとなり、自校のタスキをつなぐことができない。
公道を走る駅伝だけに、交通規制などへの配慮に基づくルールなのだが、放送局によっては最高の演出となる。選手たちの悔しい表情や涙が視聴者の共感を誘うため、日本テレビは優勝争いと同等レベルでこの繰り上げスタートをフィーチャー。また、ケガや病気で走行不可能になって「途中棄権」という悲劇もあり、その後は走らせてもらえるものの記録は認められないため、センセーショナルに実況されている。
もともと「陸上競技は実力通りの結果になりやすく波乱が少ない」と言われがちだが、箱根駅伝は例外。圧倒的に距離が長く10人ものランナーが関わること、発展途上かつ思い入れの強い学生が走ることで、波乱の可能性が生まれている。