中国はロシアとの貿易を行う上で暗号資産の利用を容認しているが、そのルートを通じて中国からロシアに資本が逃避する可能性が低いからだろう。また利用されている暗号資産もステーブルコインであるテザーが主流なのは、中国がそもそも、ボラタイルな暗号資産を信用していないからだろう。つまり、中国はビットコインを信用していない。

ビットコインを使うくらいなら、中国は自らの通貨である人民元の国際化に注力すると考えられる。そして、そのような不安定なビットコインを外貨準備に繰り入れることもしないだろう。世界経済のメガプレーヤーである中国が利用しないなら、新興国の間の決済手段としても、準備資産としても、ビットコインのような暗号資産が拡がらない。

他のハードカレンシーと人民元がいつでもどこでもだれでも決済できるようにならないと、人民元の国際化は進まない。それには、好むと好まざるを問わず、米国を頂点とする国際通貨体制と折り合いを付ける必要がある。ゆえに、中国は人民元の国際化に慎重に取り組んでいる。その中国がビットコインに活路を見出すとは想定しにくい。

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人民元不足と財源不足の裏返しではないのか

筆者は、プーチン大統領がビットコインの利用を呼びかけた理由として、国内で人民元資金が不足していることがあるのではないかと考えている。ロシア国内の大口決済はルーブルと人民元で行われているが、人民元は中国や第三国への輸入支払いにも用いられるため、常に逼迫している。それに、人民元依存を減らしたいという思惑もあるだろう。

土田陽介『基軸通貨 ドルと円のゆくえを問いなおす』(筑摩選書)

加えて、税収不足も、プーチン大統領をビットコインの利用に駆り立てているのではないか。ロシアでは11月から暗号資産のマイニングが合法化されており、事業者への課税を安定財源にできると期待している。大量の電力を用いるマイニングは他の経済活動を圧迫する恐れがあるものの、ウクライナとの戦争の長期化で国庫が逼迫している。

つまり、ロシアは背に腹はかえられない状況なのだろう。BRICS共通通貨や決済網の議論にも現れているが、近頃のロシアは、自らに有利なように新興国間の経済取引のルールを構築しようと躍起になっている。一方でロシアは、相手先や協力先のニーズを必ずしも汲み取れていない。それでは新興国間の経済取引のルールメーカーにはなりえない。

原油やガスの採掘に代わって、ロシアはビットコインの採掘に努めるようになるのだろうか。いずれにせよ、ロシア経済は緩やかだが着実に追い詰められているようだ。

(寄稿はあくまで個人的見解であり、所属組織とは無関係です)

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