映り込むことへの恐怖を感じる人も

ウォール・ストリート・ジャーナル紙は、ジムでの撮影に関して、プライバシー侵害が大きな懸念になっていると指摘する。ワークアウトに励む自分の姿を撮影したい側と、背景として映り込むことを嫌う側で、トラブルに発展することがあるようだ。

米大手のヨガスタジオチェーン、コアパワーヨガに所属するインストラクターのホルツマン氏は同紙の取材に対し、レッスン参加者から「他人の撮影した動画の背景に映り込んでいることに不安を感じている」との声が上がっていると証言している。ニューヨーク在住の自営業デザイナーであるケオーさんは同紙に、「鍛え抜かれた体形の人々が集まるワークアウトクラスに参加すること自体が緊張するのに、誰かのネット投稿用の動画に映り込むことなど想像したくもない」と戸惑いを見せる。

とくに女性を中心に、通常の外出時のようなメイクをしていなかったり、ボディラインの出やすいウェアを着ていたりと、ジムで撮影されることを望まない場合も多い。これに対し、トレーニングに邁進する様子をソーシャルメディアでシェアしたいと考える利用者も一定数おり、対立を生んでいる。

「感動」「炎上」を鵜呑みにしない

こうした事例から、無断撮影や拡散がプライバシーの侵害を超えて、より深刻な人権侵害へと発展している実態が浮かび上がる。撮影者は「善意」や「正義」を装いながら、実際には視聴回数や収益を目当てに、他者の尊厳を踏みにじっているケースがある。

特に懸念されるのは、編集による文脈の改変だ。メルボルンの女性は「孤独な老人」に、店舗スタッフは「のぞき魔」に仕立て上げられた。ジムでは運動する人々が嘲笑の対象とされ、自閉症の女性は人種差別主義者として誤解を受けている。わずか数秒のショート動画が爆発的な再生回数を集めている昨今、背景となる文脈は十分に伝わりづらい。事実と異なる文脈で拡散される事例は、さらに増えてゆくだろう。

法制度の整備は急務だが、それ以上に私たち一人一人の意識改革が必要だ。他者を撮影する際は、その行為が相手の尊厳を傷つける可能性はないか、慎重に考えるべきだろう。ソーシャルメディアとスマートフォンの普及により、私たちは常に「撮影される可能性」と隣り合わせの生活を強いられている。しかし、この状況を「時代の流れ」として受け入れてしまうのは考え物だ。

また視聴者として、無断撮影された動画の「いいね」や共有を安易に行わない姿勢や、動画の背後に撮影者の意図とは異なる事情が存在する可能性を考慮する思慮深さも求められる。デジタル時代における新たな人権侵害の被害者や加害者とならぬよう、一般の人々をターゲットにした無断撮影動画を安易に拡散しないよう、適度な接し方を心がけたい。

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