「無関心」と「わからない」はまったく別のこと

確かに、この部分だけを抜き取れば、先生の思いもわからなくもない。しかし、このエピソードをもっと注意深く見ていくと、こんなことがわかってきた。

Lさんは自閉スペクトラム症の疑いがあり、物事を自分勝手に受け取ってしまう傾向がこれまでも多かった。相手の気持ちが理解しにくいこともあり、オブラートに包んだ言い方をせず、はっきりものを言ってしまうため、対人関係が円滑にいかずトラブルになってしまいやすい。

しかも、Lさんは他者の顔が覚えられず、何度会っても名前と顔が一致しない。それが余計に人と親密になりにくい理由にもなっていたし、人の表情が読み取れないという特徴も、そこに一因があったのである。

ここまでわかってくると、Lさんがどうして高熱の息子を病院に連れて行かなかったのかが理解できる。つまり、わが子が熱を出していることに気づかなかったのである。確かに、息子の額を触ったり、体温計で熱を測ったりすれば、高熱を出していることがLさんにもわかったはずである。しかし、そうでもしない限りLさんにはわからなかった。

多くの親なら、わが子の表情がいつもと違う、なんか顔が火照っている感じがするということを察して、熱があるのではないかとわかるかもしれない。しかしLさんの場合はそうならない。しかし、出血をしている場合はこのLさんにもすぐに気がつく。なぜなら、視覚的に明らかであるからである。

そんなことを考えると、Lさんは決して子どもに無関心でもネグレクトで放置しているわけでもない。ましてや、担任の先生が言うように、モンスターペアレントやクレーマーとは違う。逆に、息子のことを大切に思い、愛情深いところが随所に見られるのであった。

子どもが喉を怪我してしまった驚きの理由

このLさんの事例のように、発達障害の特性があるゆえに、子どものことへの配慮が足りなかったり、意思疎通というコミュニケーションができなかったりした結果、自分本位な養育となってしまうことが少なくない。

子育ては、親が子どもをコントロールして自律を促進させたりしつけをしたりしつつも、その中で子どもの自主性を尊重することが大切なのである。すなわち“子どもファースト”となったかかわりが子どもをのびのび育てていくこととなる。

しかし、それが発達障害の特性ゆえにできない親がある。次の事例もまさにそんな事例である。

【事例③:離乳食をスプーンごと喉の奥につっこんだ母親】

Mさんは24歳の女性で、8カ月前に初めて女児を出産した。もちろん育児にも慣れておらず、子育ての様子を見ていると不慣れでたどたどしい感じが家庭を訪問した保健師にもよくわかった。

その保健師は「最初の子は誰しもそうなのよ」とあたたかい言葉をかけ、Mさんを見守っていた。そんなある日、子どもが喉を怪我して救急車で運ばれたとの連絡が保健師に入った。保健師はすぐにMさんと面接したところ、離乳食を与えていたが子どもが嫌がって食べなかったので、スプーンごと無理矢理に娘の口に入れ込み、そのときに怪我をしたのだという。

写真=iStock.com/Radomir Jovanovic
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保健師はどうしてそこまで強引に離乳食を食べさせようとしたのかと不思議に感じたが、話を聞いていくとこんなことがわかってきた。