TSMCには豊富なノウハウと資金がある
現在、半導体製造プロセスは分子レベルに近づいてきている。分子レベルということは、それ以上は物理的に細かくはできない状態だ。いまのCPUやGPUの世界はそれを立体積層にし、さらにそれをマルチコア化(1つのプロセッサの中に複数のCPUコアを内蔵すること)している。
そういった技術を応用して「MEMS」といわれる微小な電気機械システムも作られている。センサーといえば昔は機械的なものだったが、いまでは半導体のプリント技術により、マイクロマシン化している。スマホ、ドローン、人工衛星などあらゆる製品の高付加価値化を支えるデバイスとしてMEMSが活用されているのだ。
とはいえ、TSMCが担っている半導体の製造において、すぐに破壊的ディスラプションが起こるかといえば、その可能性は低いだろう。すでにある技術を進化させていくような状況であり、「無の状態から有を生み出していく」ような状態ではないからだ。
しかし逆にいえば、TSMCにはノウハウの蓄積と豊富な資金があるので、政治的リスク以外では、容易に揺るがないポジションを築いているといえるだろう。
エヌビディアの牙城を崩すのは容易ではない
半導体業界を語るうえで外せない企業に、エヌビディア(図表2)がある。
一時はアップルやマイクロソフトを抜いて時価総額が世界一になったこともあり、日本でも連日連夜、その名前を耳にするようになった。そんなエヌビディアの売上の8割超がAI関連だ。ここでは簡単に、エヌビディアがなぜ強いのかを解説しておこう。
CPU(Central Processing Unit:中央演算処理装置)という言葉を聞いたことがある人は多いだろう。CPUは汎用プロセッサであり、コンピュータで扱われるデータはCPUを通して制御・計算を行う。
一方、GPU(Graphics Processing Unit:画像処理装置)はゲームや自動運転の開発用に、多次元のグラフィックを高速処理するため、行列計算に特化して作られたプロセッサだ。最近では生成AIで計算処理をする際にも必要となる。AIの処理とGPU計算処理が似たものであった(高度な計算を一箇所で行うのではなく、単純な計算を並列で大量に行う)ことから、AIにGPUが使用されることになり需要が伸びている。AI以前にも、仮想通貨のマイニングの計算がGPUに適していることから需要があった。
エヌビディアは早い時期からグラフィック処理のニーズに合わせてGPUの開発に着手し、業界をリードしてきた。またその間、エヌビディアはGPUを使うためのCUDAと呼ばれる、統合開発環境とランタイムライブラリをデファクトスタンダードとして育ててきた。
プログラマーはグラフィック処理以外の汎用の計算用途でも、CUDAを用いてプログラミングを行うのが当たり前になっている。その意味で、いまとなってはCUDAが「インフラ」となっており、エヌビディアの牙城を崩すのは容易ではない。