文書に唯一残る“疑問点”
当然、A子さんはそうした曖昧な決着に同意するわけはない。しかし、文春側が徹底的な法廷闘争から妥協案を探る方向へ転換した以上、「松本が謝罪すること」を絶対条件に、松本の取り下げを認めざるを得なかったのではないか。
文春で告発した女性2人のうち1人は、朝日新聞デジタル(11月8日 20時30分)で、「割り切れない思いはありますが、一定の謝罪がなされたことは重要で、これでそれぞれが前に進めると感じています」と語っている。
「(中略)女性はこれまでのことを振り返り、『私は告発したことを誇りに思っており、優しい家族や支えてくださった心強い文春の編集部の皆様と、気を使いながらいつも通り接してくれた友人たちには感謝でいっぱいです』としたうえで、『強い者が弱い者を性的に搾取しない社会の実現を願っています』とのコメントを寄せた」
A子さんには失礼な話になるが、こうした場合、松本側が彼女に対し何らかの慰謝料を払うということが、われわれ業界の常識ではある。その場合、そのことは他言しないという誓約書にサインをしてもらうこともあるようだ。
松本側から何らかの金額の提示があったのではないか。それをA子さんが了解したかどうかはわからないが、松本側と文春側がともに、「金銭の授受は一切ありません」とことさら書くのは、私にとって不思議でならないのだが。
テレビへの復帰はかえって遠のいた
それはともかく、この訴訟は、松本人志の「完全敗訴」であることは間違いない。松本が告訴取り下げを公表した11月8日は、A子さんが松本と9年前に出会った日だったと、東京スポーツWEB(11月15日)が報じている。
松本はそのことを知って、この日を選んだのだろうか。
このような終わり方では、松本が目論んでいたテレビへの早期復帰はかえって遠のいたと思わざるを得ない。
告訴から1年もたたないうちに、松本がいなくても、彼の冠だった番組も回り、松本人志という存在は急速に「昔話」になっていくのを見ていて、松本は、「こんなはずではない」と焦りを強くしたのであろう。
松本はテレビで見ると外見、物言いが“ちょいワル”なイメージだが、本性はネクラの小心者であろう。それは、文春が書きたてたとき、会見を開かなかったことからも伺える。
不倫がバレて逃げ隠れしていたお笑い芸人には、「会見を開け」といっていたくせに、自分のこととなるとからきし意気地がなかった。
会見を開き、自分の悪行を笑い飛ばし、謝罪すれば、イメージは傷つき番組は減っても、まだテレビの隅っこには残れたかもしれない。
だが、このような終わり方をすれば、誰もが、文春が報じた内容のほとんどは事実だったと思うに違いない。ケリの付け方としては最悪だと思う。