争点になるはずだった告訴状の“一文”

意図的にわかりにくい文章にしているが、松本の手下の芸人たちが集めてきた女性たちとホテルで会って、多くの女性たちと性的関係をもったことは事実だったと認め、謝罪しているのである。

多くの女性たちは、自分と関係したことを不快には思っていないだろうという“驕り”が透けて見えるが、中には、そうした方がいるかもしれないので、そうだったとしたらお詫びするというのは、A子さんに向けてだと読みとれる。

週刊文春竹田聖編集長のコメントにもこうある。

「原告代理人から、心を痛められた方々に対するお詫びを公表したいとの連絡があり、女性らと協議のうえ、被告として取下げに同意することにしました」

だが、最後まで折り合いがつかなかったのは、松本が告訴した時に書いたこの部分であっただろう。

「記事に記載されているような性的行為やそれらを強要した事実はなく、およそ『性加害』に該当するような事実はない」

松本としては、A子さんに対する強権的な性加害を認めれば、芸人人生に終止符を打たれる。文春側としては、A子さんが苦しみ抜いた末に告白してくれた内容を否定するような書き方を認めるわけには絶対いかない。

写真=iStock.com/bee32
※写真はイメージです

みっともない形で終わった騒動の真相

だが、2人だけの密室の出来事であり、録音や写真、医者の診断書などの物的証拠があるわけではない。裁判になれば、そこが最大の焦点になるはずで、文春側の代理人弁護士も悩んだはずである。

早く裁判にケリをつけて芸能界に戻りたい松本人志と、長期化しても勝訴できるかわからない文春側の利害が一致したのだと思う。

もちろん取り下げを申し出てきたのは松本側であることは間違いない。

多くの女性たちをホテルに呼び寄せ、関係をもったことは認め、謝罪するが、A子さんに対しての性加害については、「強制性があったのかなかったのかは曖昧にする」というギリギリの「妥協案」が作られたのではないか。

「強制性の有無を直接に示す物的証拠はない」という文言は、彼女たちと強制的に関係を結んだかもしれないが、そうだという物的証拠はないよね、といっているに過ぎない。

性加害があったということは文春側に立証責任がある。だが松本側は、話し合いによる解決にすら持ち込めず、告訴取り下げというみっともない形で終わったというのが真相であろう。