“自国第一主義”の行き着く先は
一方、米国では、IT先端分野のAIなどソフトウェア開発に取り組む企業が増えた。国際分業体制を整備することで、経済運営の効率性は高まった。米国で鉄鋼など在来分野の雇用は減少したが、飲食、宿泊、交通、物流などのサービス業が成長した。米国は経済、政治、安全保障の中心国家としての地位を活用し、グローバル化のベネフィットを享受したといえる。
トランプ氏はグローバル化で経済の効率性を高めるより、関税などを使って海外企業に米国での生産を増やすよう求める可能性が高い。同盟国の企業による対中投資に規制や制裁を発動する恐れもある。
そうした政策は、米国をはじめ世界経済の拡大均衡を阻害することも考えられる。グローバル化が支えた企業のコスト逓減、直接投資の増加による新興国経済の工業化の加速、比較優位性による自由貿易の推進などの停滞懸念は高まるだろう。
自動車をめぐり日本との通商摩擦も
関税の引き上げによって、半導体や自動車などの分野で米国と中国、欧州諸国、わが国などの通商摩擦が拡大することも懸念される。状況によっては、米中で双方の企業の製品に対する不買運動が激化し、貿易戦争が勃発する恐れもある。
今後、わが国の経済運営の難しさは増す可能性がある。短期的には、わが国の個人消費に下押し圧力がかかりやすくなりそうだ。
トランプ政権が重視する関税引き上げは、米国の物価押し上げ要因になりうる。他方、減税の恒久化や規制緩和の期待から、一時的に米国の個人消費、設備投資は増え、政権交代後しばらくは米国経済が堅調な展開が続くだろう。その一方、景気の過熱とインフレ上昇の抑制に、連邦準備制度理事会(FRB)が金融緩和方針を微調整するとの観測も増えるだろう。それにより、米金利に上昇圧力がかかると予想される。