個人情報の取り扱いについて溝は深まる

熊本市と検証部会による会見が行われた同じ日の午後、慈恵病院も独自に会見を行った。熊本市の回答に対し、理事長の蓮田健氏は反発した。

筆者撮影
記者会見した慈恵病院の蓮田健理事長(右側)

「ゆりかごに預け入れる女性は、匿名が保障されないとなるとここを頼ることはできません。私たちは預け入れにこられた方と接触できたケースでは、場合によってはお引き止めして事情をお伺いし、児相の方が面会されたこともあります。

そういう状況になったときには、女性に対して、児相の方には個人情報を話さないよう気をつけてください、そうしないと、児相はあなたの居場所を特定する恐れがあります、とお伝えしてきました。今後もそれを続けるよりありません」

一民間病院が赤ちゃんの親に関する秘匿性の高い情報を保持し続けることについては、熊本市と慈恵病院の双方が問題視している。にもかかわらず、「匿名性」をめぐって双方の溝は埋まる気配はない。

熊本市長が独自でGOサインを出した結果

そもそも熊本市の赤ちゃんポストは、国が突き放す中、当時の幸山政史市長が独自に許可した(連載第6回)。当時、市長には反対する声の方が多く聞こえていたという。

熊本市長の政治判断に対し、赤ちゃんの処遇を担当した熊本県中央児童相談所を所管する熊本県は、当時の潮谷義子知事が、児童相談所運営指針に基づいて社会調査を行うよう現場に指示した。

その後、熊本市が2010年に児童相談所を開設したのを機に、ゆりかごに預け入れられた赤ちゃんに関する業務は熊本県中央児童相談所から熊本市児童相談所に引き継がれた。そして現在に至るまで、ゆりかごに関する行政の業務の全てを熊本市が担っている。