ノルマが与えられ突如としてスイッチが入る
当時のコンパックの営業部隊は、他社から高給で引き抜かれてきたトップ営業マンの集団だった。営業部長以上は全て中途採用で、マネジャー以下もそんな猛者たちに育成された野武士のような集団。一匹オオカミである彼らは、何も教えてくれないし、育てようとすらしてくれなかった。
ところが、ノルマを与えられた瀬川は、なぜか、突如として、スイッチが入ってしまったのだ。これは瀬川に特徴的な行動パターンであることが後に判明するのだが、彼は、明確な目標が設定されると、異様な集中力と創造性を発揮する特性を持っているらしいのである。
「部長からノルマをもらって以降、優秀な先輩たちの商談を徹底的に観察して、自分との違いを分析しました。そうしたら、会話の瞬発力が決定的に違うことがわかったのです」
瀬川によれば、優れた営業マンは、意表を突くような相手の質問にも間髪を入れずに答えることができるという。そうやって瞬時に切り返しをしながら、自分の思い描いているゴールに向けて商談を引っ張っていく。
それに気づいた瀬川は、いったい何をしたのか?
「商談のスタートで僕の言葉に対して相手がどう反応するか、考えうるあらゆるケースを洗い出して、この場合にはこう答える、こうきた場合にはこう答えると、いわゆる想定問答をA3のノートにびっしりと書き出したのです。そして、商談の前に、それを全部丸暗記していったんです」
この独自のメソッドによって瀬川の営業成績は急速にアップしていき、新規の客ばかりを相手にした商談で3カ月に6億4000万円を売り上げるという、驚異的な記録を樹立する。ノルマをクリアしたばかりでなく、これは全社トップの営業成績であった。
夫婦が出会った職場
瀬川はコンパックを皮切りに、4社のIT系のスタートアップを渡り歩いて、いずれの会社でも抜群の営業成績を残している。
一方、子どもを教える仕事をしたいと考えていた宮本は、内定をもらった10数社の中から学習塾を選んだ。しかし、その塾が少々エキセントリックな経営方針だったこともあって、すぐに英語教室に転職している。やがて、その英語教室がパソコン教室を開設することになったため、その準備でITについて学ぶ機会を持った。
宮本が言う。
「私は旅行が趣味だったのですが、当時はちょうど派遣という新しい働き方が広まり始めた時代でした。パソコン教室をやめた後は、派遣でしばらく仕事をしてお金が貯まったら長期の旅行に出て、戻ってきてまた派遣で働くという気ままな暮らしをしていました。富士通やパナソニックといった大手企業に派遣されて、ソフトウエアのデモンストレーションをやる仕事が主でした。でも、30歳を過ぎた頃、そろそろ安定した仕事に就いたほうがいいかなと思って、シナジーマーケティングという会社に就職をしたのです」