本社は大阪なのに社長は長野県に
雄大な南アルプスの山々を見渡せるフルカイテンの伊那オフィスは、伊那市役所(長野県)の真裏にある。
ここは伊那市が新産業の創出と地域活性化のために開設したシェアオフィス(パノラマオフィス伊那)であり、月の家賃は破格の3万8000円。オフィス内部は地元伊那産の無垢材をふんだんに使ったぬくもりのある造りになっていて、打ち合わせのための共有スペースや駐車場も附属している。
このステキなオフィスをCEOの瀬川直寛と妻の宮本亜実(採用広報チーム)のたった2人で使っているのだから贅沢というものだが、なぜ、大阪に本社を置くスタートアップ企業のCEO夫妻が伊那市で仕事をしているのかについて、簡単に説明するのは難しい。
少々持って回った言い方をすれば、夫妻が「在庫分析クラウドサービスFULL KAITEN」を生み出すまでの地獄のような日々が引き寄せた“約束の地”こそ、ここ伊那である、ということなのかもしれない。
破天荒な夫と粘り強い妻
フルカイテンの「在庫分析クラウドサービスFULL KAITEN」は、単に在庫の数量を管理するためのソフトウエアではない。在庫を「かなり売れ筋」「売れ筋」「死に筋」「中間」の4種類に分類してくれると同時に、最適な発注数と発注のタイミング、またどの商品をどの店舗に移動すれば売上と粗利が上がるかを教えてくれる、画期的なシステムである。
このありそうでなかったシステムは、現在、在庫分析に悩む多くの企業から爆発的な支持を得ており、フルカイテンは2年で売り上げが1.6倍になる急成長を遂げているのだが、その原動力は瀬川CEOの独創的な、いや相当に破天荒な性格と、それとは正反対の、宮本の温和で粘り強い性格の「組み合わせ」にあると言ってもいい。
瀬川の破天荒ぶりを最もよく示すエピソードは、なんといっても大学受験の仕方である。
ドラマ「振り返れば奴がいる」(フジテレビ)を見て医者に憧れ、医学部進学を目標に据えた瀬川は、高校時代、まさに破天荒な方法で受験勉強に励んでいる。
瀬川が言う。
「実家が自営業で浪人させてもらう余裕がなかったので、2年間で高校3年分の勉強を終わらせて、残りの1年間を受験勉強にあてると決めたんです。もう、早朝から深夜まで、むちゃくちゃ勉強しました。学校の授業を聞いている時間がもったいなかったんで、自分で勝手に時間割を作って受験勉強をしていたんですが、当然、先生は怒りますよね……」
教師から何度も注意を受けたが、それで態度を改めるような瀬川ではなかった。
「瀬川、教室から出て行け! と言われたら、もうガッツポーズですよ。廊下に座って、自分の時間割に従った勉強を続けました」