知的で人間味あふれる田中角栄のサイン

田中角栄氏は、日中国交回復を成功させたり、日本中を高速道路や新幹線などの高速交通網で結ぶという当時としては画期的な日本列島改造論を計画・実行し、強烈な指導力と権力・影響力を持っていた昭和の政治家です。

田中角栄氏といえば「金と権力」というイメージがありますが、それに反して田中角栄氏の文字は非常に品があり、知的で人間味あふれる文字です。

特に苗字と名前の書き方の違いは興味深いです。苗字は「家」「組織」を表すことから、公的な立ち位置の生き方が表れる文字です。田中氏の苗字は楷書で強い右上がりに書かれています。これは一本気で割り切った思考の人に多い書き方です。

一方、個人を表す名前は行書で非常に優しい曲線で書かれています。この曲線は人間力や器を表し、行書というつながった線は人とのつながりを表すことから、強さや厳しさと優しさを併せ持った、味のある非常に魅力的な人であったのではないでしょうか。

角栄と大谷翔平のサインの共通点

後年の田中氏のサインを見ると、どんどん崩し字になり、オリジナリティあふれる文字になっています。

一般人には「田中角栄」と全然読めません。この崩し方は超越字といって、読みやすさより自分らしさを追求した、一般の人が考えるさらに上をいく人に見られる筆跡特徴です。

「越山」の2画目の縦線が強く長く伸びている頭部長突出型というリーダーシップ線は、大谷翔平さんと同じ特徴ですが、田中角栄氏の頭部突出線は明らかに長く強い線であることから彼の「越山(彼の政治団体)」でのリーダーシップの強さが感じられます。

なかなか真似できない崩し字と強力な頭部突出線から、彼の権力や強さが増していったことが想像できます。そして、「田中(組織)」の大きさに対して「角栄(個人)」がどんどん大きくなっていったことから、自我も肥大していったのかなと想像します。

しかしながら、この書を見る限りでは才気煥発というか知的で風雅で上品な人のイメージしか湧きません。強い権力を持ったことで残念な結果になってしまいましたが豪胆で凜とした印象を併せ持つ味のある人物、ぜひ生前お会いしてみたかったなと思います。