手取り所得の引き上げ

国民民主党がもっとも重視している公約が、所得税の基礎控除などを103万円から178万円に引き上げる所得税減税である。これはパートタイム主婦の賃金が一定水準を超えると、自ら厚生年金保険料を負担しなければならず、その水準に達する前に働く日数や時間を抑えてしまう「働き方の壁」と同じ問題に対応し、さらに手取りを増やすためのものである。

この改正で大きな影響を受けるのは、パート主婦よりも学生アルバイトである。

学生は厚生年金の適用対象外だが、所得税の基礎控除と給与所得控除を合わせた103万円を超すと、世帯主が扶養控除を受けられなくなる。これは増税となるだけでなく、扶養控除とリンクしている会社の子ども手当も失うことになる。

この学生のアルバイト収入の上限が、年間100万円程度に抑制されてきた現状から大きく改善されるならば、喜んで国民民主党に投票した若年者は多かったであろう。

写真=iStock.com/maroke
※写真はイメージです

年金改革との整合性

所得税の基礎控除と給与所得控除の合計額は、1995年に103万円に定められて以来、据え置かれてきた。このため過去のデフレ期はともかく、最近の物価や最低賃金の上昇に応じて、基礎控除額を引き上げることには一定の合理性がある。しかし、それを一挙に7割も増やすことは妥当か。ここは大いに議論の余地がある。

働き方の壁への対策としては、同様の問題に対する年金保険料の改正との矛盾も生じる。なぜなら年金審議会では、この問題に対して、対象となる中小企業の規模や労働者について適用基準を、現行水準よりも、逆に引き下げることで就業調整を防ぐ方向での審議が進められているからだ。

あえて引き下げようとしているのは、例えばパートタイム主婦について保険料を負担する賃金の水準を高めても、そこで新たな働き方の壁が生じてしまい、結局、いたちごっこになってしまうからだ。

他方でこの年金保険料の適用基準について、「手取り所得引き上げ」を公約とする国民民主は、より高い賃金水準まで負担しなくて良い仕組みで泣ければ整合性がとれない求。弱い立場にある自民党は彼らの言い分をそのまま受け入れるのだろうか。