マクロ経済への効果

国民民主が主張する基礎控除などの引き上げにもとづく所得税の減税の財政負担額は7.6兆円という試算がある。注意が必要なのは、引き上げの効果は高所得層ほど大きいということで、不公正との指摘もある。現行制度では、基礎控除は年収2400万~2500万円で逓減・消失する仕組みだが、財政負担を抑えるためにこの水準を引き下げるといった仕組みも必要かもしれない。

国民の耳障りのいい政策を打ち出している国民民主だが、消費税率の半減やエネルギー減税などについての公約と同様に、それら大幅減税のための財源には一切触れていない。

もともと自民の石破茂総裁と立憲民主の野田佳彦代表は、いずれも財政再建を重視する立場であった。今後、財源を考慮せずに減税を求める国民民主が、政権に実質的に加わることで、与野党間で、国民への一律給付金などの引き上げ競争といったポピュリズムに歯止めをかけることは、いっそう困難になるだろう。

自民党総裁 石破茂氏
自民党総裁 石破茂氏(写真=内閣官房内閣広報室/CC-BY-4.0/Wikimedia Commons

では、仮に大幅な減税政策が実施されることになれば、日本経済はどうなるのか。

短期的には円安・株高を通じて景気拡大にはプラスだろう。そのことで、日本経済の構造問題に取り組みたくない自民・公明両党にお墨付きを与えることになりかねず、本質的に依然として経済停滞している現状からの脱出は難しくなる。

勤労者の所得を増やし、国民の消費を拡大し、経済を活性化させるには、一時的な減税よりも持続的な実質賃金の増加が基本だ。このためには新規事業の創出や、不足する労働者の効率的な活用のための働き方の改革が必要となる。

ところが、労働組合の連合の支持に支えられている国民民主にとって、働き方の改革は大きな負担となる。現に、政権公約には、ライドシェアなどの規制改革や労働市場改革にはほとんど触れていない。

現状のままでは、日本企業の投資は、停滞する国内市場よりも成長する海外市場を目指すことになろう。すでに米国への直接投資額では、投資国別で日本はトップになっており、今後、USスチールの買収ができれば、さらに膨らむことになる。そうなれば日本企業の利益が増えても、その大部分が海外に再投資されるだろう。日本国内の経済はあまり恩恵を得られないのだ。

今後、米国などと異なり、労働力人口が持続的に減少する日本では、企業の情報化投資などの拡大で生産性を高め、実質賃金が持続的に上昇しなければ、国民生活は向上しない。そのためにカギとなる労働市場の流動化に結び付く制度や規制の改革を軽視する政策のままでは、国民民主党の将来は暗い。与党の政権運営が国民民主の存在に依存するのであれば、与党の未来も暗く、国民の未来も同様だ。