「日本は中国をどうするんだ?」と聞いてくる

――石破茂首相は自民党総裁選に勝つや、将来的な「アジア版NATO」の創設や日米地位協定に言及しました。

色々なお考えはあると思います。石破さんも首相になるや、その発言は“いち議員”としてのもので、総理のそれではないと発言されました。基本的に、日米同盟はその関係を強めており、誰が総理になろうとも同盟の本質は揺らぐことはないと思います。

――日米基軸の脅威の1つが中国の存在と言われています。経済的にも、軍事的にも中国の存在感がますます強まっている、と。日本ではそこまでの現実感がないのですが、そのあたりはどうでしょうか?

これはですね、大統領がトランプになろうが、ハリスになろうが、米国にとっての“一丁目一番地”は、中国です。それは間違いないことであるばかりか、そうした考えは一層として強まっていると思いますよ。だから日本が大事ということになるわけですが。

バイデン政権で国務長官を務めているアントニー・ブリンケン。彼がその要職につく前、よく2人で議論をしていました。そこで、ブリンケンはさかんに聞くわけですよ。

「杉山さん、われわれは中国をどうするかを寝ても覚めても考えている。日本はどうするのか?」と。私が、日本には日本の考えがあるから心配するな、と話しても、ブリンケンは「日本はどうするんだ?」という質問を繰り返すわけです。中国に対する危機感は民主党であれ、共和党であれ、相当なもんですよ。

撮影=遠藤素子
米国で政府関係者に会うと、中国への危機感をひしひしと感じるという

ただ追随することが「同盟」ではない

あんまりブリンケンが日本はどうする、と聞くので、「米国は中国との付き合いが200年程度だと思うが、こっちは2000年以上中国と付き合っているんだ。アメリカと一緒かどうかはわからないが、ちゃんと答えを用意する」

するとまた「じゃ、どこがどう違うのか?」って聞いてくるんですが(笑)。

――米国とは違う政策をとる可能性もある?

それはもちろん、政策として米国とすべて一緒ということはないかもしれない。一緒かもしれない……違ったとしてもそれで同盟は揺るがないと思いますよ。

中国に共産党国家が誕生した時の話です。中華人民共和国が誕生(1949年10月)。この際、英国の首相、クレメント・アトリーを首相に戴く内閣は、その政権を承認し、外交関係を結ぶ。もちろん、米国政府にそのことは伝えていた。

一方、中華人民共和国を承認した英国とは異なり、米国は台湾に逃れた蔣介石率いる国民党を支持した。“血の同盟”ともいわれるほど鉄の同盟関係にあった英米で異なった中国政策を取るんですね。それぞれが国益を最優先した結果なのだが、かといって米英の同盟が破綻したか? そうはならなかった。“血の同盟”は今も続いています。

この米英の体験は、同盟とは何かを考える上でも、また同盟の本質を考える上でも、とても重要だと思います。追随するだけが同盟ではない。「合意しないことに合意する」これこそが同盟の極意のような気がしています。

撮影=遠藤素子
同盟の本質は「合意しないことに合意する」。それは日米同盟でも同様だ