「国民の付託を受けている」という自信がある
――事務方を務める官僚という立場から観ていて、安倍首相や田中首相のように政治的なリスクを取ってまで、なお決断させるものは何でしょうか? 個人の資質ですか?
もちろん、持って生まれた資質もあるでしょうし、また辿った政治経験も大きい、と思います。が、私が官僚という立場からお仕えさせていただいた政治家の方々を観た場合、やっぱり国民の付託を受けているというその自信じゃないでしょうか? 安倍さんの場合、第2次政権だけでも衆参合わせて選挙を5回やっていますから。それをすべて勝ってきているわけですよね。国民世論の付託を受けているという、それが大きな自信になったんじゃないでしょうか。
――今回の新著『日本外交の常識』(信山社)でも日米同盟の基軸である「日米安保条約」についてかなりの分量を割かれています。その中で杉山さんご自身も語られているように、言及の数でいえば、意外や安倍さんよりも岸田文雄前首相のほうが多い。
地味だが、成し遂げた功績は大きい
私も書いていて意外だったんですが、そうなんですよ。岸田さんのほうが多いんですね。しかし、それは冷静に考えるならば当たり前なんです。安倍さんがオバマ政権、トランプ政権との特別な関係を築き上げ、日米同盟をさらに強固なものにしたことは紛れもない事実。その安倍さんが政権時代にできなかった、いわば日米同盟を“深化”させる役回りを岸田前首相がおやりになったという印象ですね。
ですから、岸田さんがやられたことは、一見、安倍さんのような派手さはありませんでしたが、果たされた役割は非常に高く評価されるべきだと思います。
――具体的にはどうですか?
たくさんありますが、日米同盟を“深化”させていった一番の功績は、やはり「国家安全保障戦略」を改定し“敵基地攻撃能力”を整備したことですね。これは国際法上、自衛権として認められているものでもあり、また日本の憲法解釈でも不可能ではなかった。しかし、その能力を自衛隊には付与しないというのが今までの政治判断だった。それを新たに付与したことは、岸田前首相の画期的な政治判断だったと思いますね。言うなれば、安倍さんが描いた図に、魂を入れたのが岸田前首相だったと言えるんじゃないでしょうか。
敵基地攻撃能力を日本が身につけたからといって日米安保体制の“矛”と“盾”の役割分担を基本的に変えるものではありませんが。