驚かされたのは、オバマ大統領退任の時も…
本には書きませんでしたが、現職のオバマ大統領を戴く国務省は相当に怒ったようです。そりゃ、そうですよね。大統領が現としている中の訪問だったんですから。だから、国務省は主要国のリーダーたちに、「決して日本の真似をするな。それは許さない」と強く要請したそうです。
これだけの政治的なリスクを背負える安倍さんという政治家はやはり優れたリーダーだったと思います。が、それ以上に安倍さんという政治家の資質に瞠目したのは、トランプ訪問が終わり、同じ年の12月のハワイ。パールハーバーで行われた安倍―オバマの首脳会談だった。
――どう驚かれましたか?
本当に何もかもっていう感じですが(笑)。安倍さんのほうから、「オバマさんが退任するから、挨拶に行きたい」という話が、まずあった。これは、外務省としてもとてもいい話なんですね。しかし、驚かされたのはその場所として、安倍さんがハワイの“パールハーバー”をあげたことです。
まるで田中角栄首相を想起させる資質
「エッ、パールハーバーですか」って感じでした。まったく虚を突かれた。首脳会談の場所にパールハーバーを選択するのが、安倍さんの政治家としての資質を余すところなく伝えているような気がします。今もって「パールハーバー」に対する米国の国民感情は複雑なものがあり、一歩間違えれば訪問が逆効果になり、日米関係に暗い影を落とす可能性もあった。しかし、そこで安倍さんは歴史に残るような演説「和解の力」を行う。
――政治家のリスクを取る力というか、リスクを取れる政治判断をできるから政治家なのか……。
安倍さんのエピソードは、日中国交正常化を実現した田中角栄首相を想起させます。
1972年、ニクソン米大統領の訪中を後追いするように田中首相は訪中する。米国の後追いをしただけだろなどと批判の声もあったようですが、とんでもない話です。先輩たちから聞かされましたが、訪中した段階で本当に国交正常化の合意を達成する確証はなかったというんですね。
――つまり、現地に行っての勝負に田中首相は懸けたということですか。当然、中国側から拒否された場合は、首相も辞任する覚悟だったということですか?
ええ、そういう風に聞かされていました。安倍さんも、田中さんもある意味、首相の職を賭してまで政治決断をしたということなんでしょう。こうした大きな外交は、最終的には政治家の判断、決断に委ねられる。外交的な資質というよりも、政治家としての資質ということになるんでしょう。