思わず「ダメです」と止めた安倍首相の仰天発言

――個人的というか、一対一で会うとトランプの印象は違いましたか?

正確に言うと一対一はありません。彼のスタッフがいる中で彼と一対一で会ったことはあります。

――やはり違った?

それはビジネスの世界とはいえ、リーダーだった人ですからね、チャーミングだし、温かいんですよ、とても。気を逸らせないし、包み込むような温かさを私は感じましたね。

――トランプ政権といえば、安倍晋三元首相の名前が浮かびます。先進国のリーダーの中でただ一人、異例の大統領と特別な関係を築き上げた。トランプ―安倍の関係から、日本の首相に求められる政治家としてのリーダーシップ、そして外交の資質みたいなものが見えてくるような気がします。

トランプが予想に反してヒラリー・クリントンを破り、大統領選に勝利したのは2016年11月。この時、私は日本の外交を司る外務省事務次官のポストにありました。時の首相は安倍晋三さん。その安倍さんからこんな要望が来ました。

「トランプさんに会いに行きたいんだけど、ダメかな?」

「ダメです」と即答しました。なぜって、たしかにトランプは大統領選に当選はしましたが、それはあくまで次期大統領になることであって、現実にはバラク・オバマ大統領がいるわけですから。日本の首相が相対するのは大統領一人なんですからと。

撮影=遠藤素子
インタビューは外務省の顧問室で行われた

これが格別な友情関係の始まりだった

――それでも安倍さんは諦めなかった。

そうなんです。「やっぱりダメか」というから、こちらは「ダメです」という。こんなやりとが続く中、安倍首相の意向が非常に強いこともあり、最終的には「ではなんとかやってみます」ってことになりました。

しかし、これは安倍首相の政治家としての直感というか、センスというか……まさに政治判断だったと思う。世界中の国々のリーダーたちが、トランプがどのような政治家なのか、どんな人間なのか、なにをやってくるのか、というように用心深く距離を取っている中で日本のリーダーがただ一人、しかも現職大統領がいる中で、会うという決断をするのですから。本当に大きな政治的なリスクを覚悟して安倍さんは決断したんだと思いますね。

――2016年11月17日、安倍首相はニューヨークのトランプタワーまで訪ねていき、トランプとの会談が実現しました。

これがトランプ―安倍という格別な友情関係の始まりだった。後に聞かされましたが、トランプもこの安倍さんの訪問を非常に喜んだそうです。「アジアの大国、日本の首相がわざわざ会いに来てくれた」と。

撮影=遠藤素子
顧問室の机には、外交官時代の各国からの贈り物が並べられていた