自宅の玄関で感じた“息子の殺気”

外出の記録はすべて、探偵事務所から資料が届くようになった。幸也には、買い物の記録が判るようにクレジットカードを渡していた。さえは、幸也が出かけている隙に部屋に入り、わいせつな雑誌や画像などをチェックしていた。さらに、さえは息子の部屋のゴミをひとつひとつ確認し、精液のついたティッシュペーパーを見つけると、マスターベーションしていれば性行為はしないだろうと安心していたという。

探偵事務所からの調査報告によれば、幸也は時折、マッチングアプリで若い女性と会っており、未成年者の場合、条例違反になるので気を付けるようにと言われていた。

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費用がかさみ、探偵事務所への依頼は数カ月しか続かなかった。さらに強力な再犯防止策はないかと、さえは、引きこもりの若者たちを更生させる団体など、全国の支援者に片っ端から連絡を入れ、自宅に招いていた。当団体もそのひとつだった。

さえから連絡を受けた私は、幸也のいる自宅を訪ねることにした。玄関を開けた途端、誰かがいる気配を感じた。家庭内暴力が起きている家庭は、玄関を入った途端、殺気のようなものを感じることがある。絵画で隠している壁には大きな穴が開いており、幸也が暴れた跡だった。

「学歴のない人を人間だと思っていないんです」

幸也がいる二階に上がろうとした瞬間、ガッシャ―ンと大きなものが目の前に落ちてきた。幸也の部屋にあったギターだ。

「また宗教かよ、帰れよ!」

部屋から顔を出し、殺気立つ幸也に、私はなんとか少し話がしたいと申し出た。

「僕は静かに生活したいだけなんですけど……。この前は、ヤクザみたいな男の人が急に部屋に入って来て、いきなり殴られたんです……」

さえが依頼した引きこもり支援団体の職員だという。幸也は私が女性であることがわかると、緊張が解けた様子で、これまでのいきさつを話してくれた。

「母は、学歴のない人を人間だと思っていないんです。だから、僕に対しても何をしても構わないと思ってるんでしょう」

さえは、幸也が家で暴れたり、さえに暴力を振るうと訴えており、確かにさえの腕には痣が残っていた。私たちは二階からギターを投げつけられ、もし、直撃していたら大怪我をしたはずだ。

「ごめんなさい……。また、暴力を振るわれるのではないかと、怖かったんです」

幸也は、引きこもり支援と称するいわゆる「引き出し業者」だけでなく、宗教家にも部屋から出ろと腕を引っ張られ、顔面に平手打ちを受けたこともあったという。

「僕から暴力を振るうことなんてありません。母が突然、部屋に入って来て僕の大切なものを壊したり、『クズ』『出来損ない』とか暴言を吐くので、止めてほしくて抵抗しただけです」