元本割れ確率が5%を切るのに何年必要?

一括投資と分割投資とで、それぞれの元本割れ確率がどのように推移するのか計算した結果を見てみましょう(図表3)。このように、運用期間が長くなるとともに元本割れ確率は低下していきます。運用当初の元本割れ確率の低下は早く、徐々に低下のスピードが緩くなる曲線を描きます。私たちはライフプランにかかるお金が必要なときに、元本割れ確率が5%以内になることを目安にして投資のアドバイスをしています。この5%を割り込むまでの年数を見ると、一括投資は約14年かかり、分割投資は約29年かかっています。分割投資すれば平均の運用期間がほぼ半分になるので、元本割れ確率が一括投資と同じ水準に下がるまでに約2倍の時間がかかるのです。

とはいえ、分割投資の効果がまったくないわけではありません。将来の投資成果の確率分布は実現確率50%(中央値)の上下に広がりますが、この上下の広がりは分割投資の方が狭くなっており、投資成果の二極化現象が抑えられています。ブレのことをリスクと考えると、確かに分割投資によってリスクが小さくなっているといえるかもしれません。違和感はあるかもしれませんが、そういう表現もできそうです。

それでも、積立投資は運用の基本戦略の一つ

感覚的に、一括で投資するのは怖い、分割投資の方が安全、と思っている人は多いはずです。でも、こうしてシミュレーションをしてみると、考えが変わった方もいるのではないでしょうか。感覚だけで運用するのではなく、きちんと数字を確認する大切さを知ることができる典型的な事例だと思います。

藤川 太『「新NISAバブル」に気をつけろ!』(プレジデント社)

ただ、そうはいっても、一括投資ができるだけの蓄えがある人だけではありません。これから資産形成を目指す人にとっては、コツコツと投資する手法は分割投資ではなく積立投資といいますが、積立投資は運用の基本戦略の一つであることに変わりはありません。

例えば、こういうケースを考えてみましょう。まとまったお金が貯まってから投資を始める、という人がいます。一方で、お金が貯まる前からコツコツと積立投資を始める、という人もいます。では、どちらの戦略のほうがよい成果を見込めるのでしょうか。同じように計算すると、貯まる前からコツコツと積立投資を始める人のほうがよい結果になる確率が高くなります。これも早く運用を始めたほうが平均の運用期間が長くなるという単純な理由です。

年齢によって異なる投資戦略

例えば20代であれば、まだ一括投資するだけの蓄えもない人も多いでしょうから、積立投資しか選択肢はないかもしれません。一方で長期に投資できるという強みを活かして、オルカンのような株式だけを活用して資産形成してもいいでしょう。

ただ、若い人であっても、結婚して、子どもができて、住宅を購入する、など将来のライフイベントに必要な資金を積立投資するなら、お金が必要になる時期での元本割れリスクに注意すべきでしょう。

一方、リタイアされ退職金を受け取った方など、手元に豊富な資金があるけれど高齢な場合は、長い期間の投資は想定しにくいかもしれません。特に高齢期になると、増やすよりも守ることに重点が置かれます。分散投資することで比較的短い期間のうちに元本割れ確率を小さくすることを意識すべきでしょう。

オルカンやS&P500は取り扱い注意の投資商品

私たちはお客様のライフプランを実現するために、将来何らかの目的で必要な資金の運用をアドバイスしています。そのため、元本割れ確率の管理も重視します。オルカンやS&P500インデックスファンドは確かに平均のリターンは高いけれども、同時にリスクも高く元本割れ確率が下がるのに時間がかかります。ライフプランの実現を目指し運用するなら、使い方には注意が必要な商品といってもいいものです。

もしも、お金が必要になったときに元本割れしていたら、そのお金を取り崩すのは相当な抵抗感があるはずです。新NISAを使って投資していればなおさらです。すでに投資を始めている人も、そのお金は「いつ」「何のために」必要となるお金で、現在の投資商品とマッチしているのか、確認しておきましょう。

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