再開発ラッシュの背景にある「老朽化」と「開発競争」
この再開発ラッシュの理由として、まず挙げられるのが駅周辺の建物の「老朽化」だ。
都内にも1960年代から70年代にかけてつくられた建物は多く、また、いわゆる「木密地域(木造住宅密集地域)」と呼ばれる地域も数多く存在している。こうした地域では、耐震性や防災上の観点から建て替えが不可避とされ、再開発の大きな理由とされてきた。さらに、日本各地で地震が相次ぎ、東京でも首都直下地震への備えが急務となるなか、建物の強度を高める“更新”は必要と考えられている。
また、昨今激化している「都市間競争」も理由に挙げられる。とくに東京は日本全体が人口減少傾向にあっても、人口が今も増加し続けている(2023年8月時点で約1409万人)例外的な都市であり、ヒト、モノ、カネのすべてが集中し続けている。あくなき成長を希求する東京で、“選ばれる街”であり続けるため、その魅力を絶えず発揮し続けなければならないというのだ。
今や世界中から観光客が集まる秋葉原では、「電気街」や「サブカル」を体現したような駅前の雑居ビルなどがある一角を、高層ビルに建て替える計画がもちあがり、議論となっている。
洗練されたテナントがひしめく人気の街、自由が丘でも、駅前に高層ビルを建設する計画が進んでいる。両方の街とも、高い知名度がありながらも再開発計画がもちあがった背景には「変化し続けないと街として生き残れない」という危機感があるのだという。
いまだに続く「悪質な地上げ」
皆さんは、この東京で進む未曾有の再開発ラッシュをどのように見ているだろうか。ちょっと話が脇道にそれるが、私たちがこのテーマを取材し始めたきっかけを述べさせていただきたい。
私自身は25年にわたる記者生活の中で、こうした不動産や再開発をテーマに取材した経験はほとんどなかった。だからというわけではないが、東京の中でも加速度的に駅前再開発が進む渋谷駅近くの職場に何年も通いながら、このテーマをあまり自分事としては考えてこなかった。
通勤で使う渋谷駅は、再開発に伴う大改修が何年も続き、新たな高層ビルが次々と建設されている。ただ、言い訳をするようだが、人の記憶というものはあいまいなもので、新たな建物により、街が更新されていくと、かつてそこにあったはずのビルや店、人の営みは次第に思い出せなくなっていく。私はこうした渋谷で続く再開発をもはや日常のものとして受容し、その変化に鈍感になっていた。
そんな再開発への考えが一変する出来事が2022年秋にあった。
それは、一人の記者から受けた「都心のある一等地で、悪質な地上げが行われています」という報告だ。