続ける理由が「10円をもらうため」に変わってしまう
これは、先述した「内発的動機づけ」と「外発的動機づけ」とも関わります。今回のケースで考えられる子どもの思考回路を見てみましょう。
初めは、箸を並べる仕事を任されて純粋な嬉しさを感じていました。お小遣いももらえて、さらにやる気がアップしますが、この段階で「外発的動機づけ」が発生してしまいます。
やがて続けているうちに、「お箸を並べて役に立てて嬉しかった」という気持ちは薄れ、続ける理由が「10円をもらうため」に変わります。
すると、お手伝いという小さな成功体験の記憶ではなく、10円の効果に動機づけが置き換わってしまい、モチベーションが保てないという経過を辿ったと推察されます。
「これができたら○○を買ってあげるよ」で不安感や抑うつ症状も
子どもに達成感を味わってもらうために、小さなステップの成功体験を積む。これ自体はいいことだといわれています。
ただ、この方法を使う際に気をつけないといけないことは、ステップが小さいがゆえに、ご褒美をあげたり、大げさに褒めたりするといった付属の方法が期せずしてついてきてしまうことなのです。
大げさな褒め方やご褒美は、瞬間的にはモチベーションを上げ、自分を肯定する気持ちを高める効果を発揮します。ただ、効果は持続しませんし、長期的にはむしろ悪影響を及ぼすという研究結果がいくつも出ています。
実は「これができたら○○を買ってあげるよ」といった報酬を長期的に続けていた場合、将来的に予測される悪影響には、不安感や抑うつ症状といったメンタルに関わるものだけでなく、身体や人間関係においても良くない影響をもたらすことを示唆する研究結果が出てきています(※4、5)。
※4 Kasser, T., & Ryan, R. M. (1996). Further examining the American dream: Differential correlates of intrinsic and extrinsic goals. Personality and Social Psychology Bulletin, 22(3), 280-287.
※5 Williams, G. C., Cox, E. M., Hedberg, V. A., & Deci, E. L. (2000). Extrinsic life goals and health-risk behaviors in adolescents. Journal of Applied Social Psychology, 30(8), 1756-1771.
それでは、今回のケースのように子どもにお手伝いを促したいときにできることはなんでしょうか。
まず、「小さな家事」に興味を持ってもらうところから始めましょう。
洗濯物の中から靴下の組み合わせを探す、片付けの時間を測って前回の記録と競争するタイムアタックをするなど、ゲーム要素を取り入れ、楽しみながら一緒にできるものがいいですね。
また、小さな家事をしてくれると親としてはとても嬉しいと丁寧に伝えましょう。ただし、簡単すぎるものを過剰に褒めることはおすすめできません。ただにっこりと、「ありがとう、助かるよ」と言ってあげる。子どもはこれだけで十分幸せな気持ちになれるのです。