※本稿は、内藤誼人『「なまけもの」のやる気スイッチ』(総合法令出版)の一部を再編集したものです。
お腹を空かせてみる
現代の日本人は100年前の日本人には想像できないほどに豊かになりました。ほしいものはたいてい手に入りますし、食べ物に困るということはほとんどありません。何しろ、ホームレスの人でも糖尿病になるというお話を聞いたことがあるくらいです。
飢えずにすむというのは、まことに喜ばしいことではあるものの、困った側面がないわけではありません。
私たちは、お腹がいっぱいだとやる気が出ないのです。お腹が満たされていると、もうどうでもよくなって、何もする気にならないのです。
動物は、お腹が空いてくるとエサを得るために行動しますが、お腹が満たされていると基本的に何もしません。
動物園の動物がそうです。ずっと寝そべってダラダラしているだけです。人間も同じで、お腹がいっぱいだと動こうという気持ちにならないのです。
というわけで、貪欲に何かを求める気持ちを高めたいのであれば、あえてお腹を空かせてみる、という作戦が有効です。お腹が空くと、目がギラギラしてきて、食べ物がほしくなるのは当然として、食べ物以外についての欲求も高まってくるのです。
アメリカにあるミネソタ大学のアリソン・シューは、大学の食堂にこれから入ろうとする人(つまりお腹を空かせている状態の人)と、食堂の中から出ていこうとする人(つまりお腹がいっぱいの状態の人)を呼び止めて、さまざまな商品についての好ましさを評価してもらいました。
なお、評価するものは5つが食べ物(サンドイッチ、パスタ、クッキーなど)、5つは食べ物以外(USBフラッシュドライブ、ワイヤレス・マウス、温泉旅行など)でした。
お腹が空いている人たちと、お腹がいっぱいの人たちの評価の平均値は図表1のようになりました。
お腹が空いていると、食べ物を高く評価するのはわかりますが、食べ物以外のものまでほしくなっていることがよくわかります。
お腹がいっぱいだと、私たちは幸せな気持ちになりすぎて、「もう何もほしくない」という気持ちになります。そういう状態は、行動をするのに適当ではありません。
スポーツの世界や格闘技の世界では「ハングリー精神」という言葉がありますが、多少は、お腹を空かせている状態のほうが、私たちは何事に対しても欲求が高くなりますので、やる気が出ないのなら、あえて食事を抜くのも悪くない作戦です。
1回くらい食事を抜いても、死んでしまうことはありませんので、本気の力を出したいときには、健康的に問題がないのであれば、あえて食事を抜いてみるのはいかがでしょうか。
お腹が空くのは苦しいことではあるものの、代わりにモチベーションがアップするというメリットが享受できます。