中小企業の「変革」はまだまだ鈍いが…

また労働環境面では、働き方改革関連法施行前後の時期から、KDDI、住友林業、アサヒビール、サッポロビール、オンワードホールディングス等各社で11時間の「勤務間インターバル制度」を導入。従業員の心身の健康にも配慮する流れができつつある。

ただし、これらの事例は、優秀人材の採用競争が熾烈な一部の大企業に限られた話。わが国の企業全体の99.7%を占める中小企業ではまた事情が異なる。

大同生命保険が本年3月に発表した、中小企業約6000社の経営者を対象にしたアンケート結果によれば、2024年に賃上げを「実施済・実施予定」と回答した企業は約4割、一方で「検討中・実施予定なし」は約6割という結果となっている(中小企業経営者アンケート調査「大同生命サーベイ」)。

しかし暗い話ばかりではない。地方の中小企業でも、たとえば人気ブランド日本酒「獺祭」を製造する旭酒造では、23年度の新卒初任給を一挙に9万円引き上げ30万円としたことが話題となった。

中小企業の場合、賃上げを実現できるのは同社のように強力な商材を保持していたり、経営努力によって合理化を実現していたりする一部企業に限られるが、こうした企業が増えていけば、努力もしなければブランドも有しない一介のブラック企業では、人材獲得が今後急速に困難となっていくことが予想される。

若い人材の価値はどんどん高まっていく

また、確実に訪れるのは少子化の影響だ。現在、40代後半~50代前半の「第二次ベビーブーム」世代は、1歳ごとに200万人くらいいるが、今の新人世代はその半分の100万人くらい。2023年の出生数は72万6000人と、8年連続で過去最少の出生数となってしまった。

もう「お前の代わりなんていくらでもいるんだ!」などという時代ではないどころか、これから「若い人手」が何よりも貴重な時代に突入することになる。

2004年からわが国は人口減少傾向へと移行し、2010年ごろから「数年以内に抜本的な少子化対策を実施しないと、取り返しのつかない事態になる」と警鐘が鳴らされ始めた。

そこからは、東日本大震災の復興本格化、その後の東京五輪・パラリンピック開催決定という流れの中で、「明らかに人手が足りない」という認識が実感値として広がっていった感がある。