「石破政権だけは絶対阻止」が最優先事項

麻生氏は石破氏が大嫌いだった。かつて麻生内閣に農水相として入閣していた石破氏が真っ先に麻生おろしに動いたことを根に持っていた。

石破氏が自民党を離党して新進党に加わり、自民党に復党した「出戻り組」であることも、家柄や格式を重んじる麻生氏は気に食わなかった。石破政権だけは絶対に阻止することが、麻生氏の最優先事項だった。

写真=共同通信社
自民党総裁選後に開かれた両院議員総会であいさつする石破茂新総裁=2024年9月27日午後3時30分、東京・永田町の党本部

残るは小泉氏か、高市氏か。麻生氏は高市氏とは疎遠だった。しかも高市氏には乗りにくい事情があった。

ひとつは米国の意向である。米国は高市政権誕生を最も警戒していた。特に高市氏が首相になっても靖国参拝を続けると明言したことに神経を尖らせていた。米国はロシアや中国に対抗するため、日米韓の連携をアジア外交の基軸にしている。

高市氏が首相として靖国参拝を強行すれば、韓国世論を刺激して日米韓の連携が揺らぎかねない。高市政権だけは避けてほしいという米国の意向は自民党の実力者たちに伝わっていた。麻生氏は対米重視派として知られ、米国の意向に反して動くのは抵抗があるとみられていた。

自民党の公式YouTube動画。石破氏の登壇時には拍手をしなかった麻生氏。あいさつ後には拍手を送っていた

高市氏に最後まで躊躇した

ふたつめは財務省の意向である。高市氏はアベノミクスの継承を掲げ、金融緩和への反対を鮮明にしたうえ、一切の増税を否定して積極財政を掲げている。高市政権だけは回避したいというのが財務省の本音だった。安倍・菅政権の副総理兼財務相として二度の消費税増税を後押しし、財務省の用心棒として振る舞ってきた麻生氏は、もちろん財務省の立場を理解していた。

最後は麻生氏の家柄主義である。麻生氏は明治国家をつくった大久保利通を高祖父に、戦後日本の礎を築いた吉田茂を祖父に持ち、さらには実妹が三笠宮家に嫁いだ華麗なる一族である。家柄や格式を重んじ、安倍氏ら政治名門一族には心を許す一方、菅氏や二階俊博氏ら叩き上げ政治家に警戒感を解くことはなかった。

高市氏は叩き上げの政治家だ。しかも新進党から自民党に移ってきた「外様」である。石破氏のように自民党を飛び出した「裏切り者」ではないにせよ、麻生氏の眼鏡にかなう総裁候補ではなかった。だからこそ前回総裁選では安倍氏が担ぐ高市氏には乗らず、世襲政治家の岸田文雄氏を担いだ。今回も家柄主義でいえば、首相を父に持ち世襲4代目である小泉氏のほうが遥かにケミストリー(相性)が合うに違いなかった。

最後の土壇場で一番重視したのが「派閥」

しかし、小泉氏にも乗れない事情があった。キングメーカーを争う菅氏に加えて地元・福岡の政敵である武田良太氏(元総務相)が支援に回っていたのだ。

このままでは小泉氏は第一回投票で3位に沈み、決選投票は「石破氏vs.高市氏」の大接戦になる。石破氏が大嫌いな麻生氏は、高市氏に乗るしかない。石破政権も高市政権も回避するには、第一回投票から小泉氏に乗り、決選投票へ押し上げるしかなかった。