導入できる飲食店、できない飲食店

筆者も実際に東京都渋谷区のラーメン店「Japanese Soba Noodle蔦」のファストパスを購入してみた。

氏名や携帯電話番号、Eメールアドレスに加えて、予約手数料の390円を引き落とすためのクレジットカード番号を入力するだけで簡単に予約できた。

筆者撮影
「ファストパス」の予約手続き画面

7月の土曜日の13時に予約した。ファストパスを導入する前は、行列ができていたのだろうが、この時間通りに店に伺ったところ、行列はなかった。しかしながら、店内は満席であった。インバウンド7割といった印象だ。店内滞在時間が30分という制限はあったが、「行列がなくても店内は淡々と満席状態が続く」という仕組みがファストパスなのであろう。

筆者撮影
「Japanese Soba Noodle蔦」のラーメンの価格は2000円から。ラーメンレストランとしてのこだわりが徹底されている

ファストパスの浸透は、これまで「曖昧」だった店とお客との関係性を「潔いもの」にする契機になるのではないか。

これまでの飲食業は「キャンセルポリシー」を打ち出すことに弱腰だった。そのため、急なキャンセルにも泣き寝入りすることが多かった。

一方で、すべての飲食店が導入できるかというと、そうではないだろう。

「ファストパス」の前に、マクドナルドやスターバックスといったファストフードの世界ではオーダリングに「モバイルオーダー」が定着してきている。果たして、ファストフードに「ファストパス」は必要とされるか、というとそれはまず、商品の単価が低いことから相容れないことであろう。筆者が行った「蔦」はラーメン1杯の価格が2000円の高級ラーメン店である。

また、コロナ禍に浸透したデリバリーはオーダリングの一つとして定着している。

飲食店もお客もハッピーになるシステム

この「ファストパス」は、飲食店のオーダリングの多様化を一層推し進めている。それは「行列必須の店で、行列に並ばなくてもすぐに食事ができる」というお客の「体験価値」を満たし、それがこのサービスを提供している飲食店の収益アップにつながるということだ。

これを「体験価値の充足」と捉えると、「憧れの体験」をお金で解決するという概念に行き当たる。

筆者は昨年の夏、隅田川の花火大会を屋形船で楽しんだ。会費は1人6万円。普通であれば行列の中でもまれて、トイレの場所も非常に気になるものだ。しかしながら、この屋形船はお刺し身・天ぷらのコースメニューで、さらに花火は屋形船の屋上でゆったりと楽しむことができた。このサービスは極端な例ではあるが、まさしく「体験価値の充足」であり「タイパ」である。

このような観点に立つと、飲食店も夜景が美しいとか、ライブのバンドに近いとか、「体験価値の充足」や「タイパ」をかなえるためのサービスがこれから現れてくることも予想される。

飲食で進むDXが、飲食業とお客との関係性をますますハッピーなものに変えていく。

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