熱海土石流災害と比較し不安を煽る

この視察以降、川勝知事は「リニアの発生土は多くの方が犠牲になられた熱海土石流の60倍を優に上回る。これを燕沢付近に積み上げるというが、燕沢付近は、国交省の深層崩壊の最も頻度の高いところに指定されている。これをどのように解決するのか、いまの最大の課題だ」(2023年6月13日定例会見)などと発言した。

知事会見ではほぼ毎回、熱海土石流と比較した上で、同様の発言を繰り返してツバクロ残土置き場を否定した。

熱海土石流の約5万5000立方メートルとツバクロ残土置き場の約360万立方メートルを比較して60倍以上になるという理由だけで、大規模なツバクロ残土置き場の適格性を問題にした。

だが、この単純比較は不適切だ。

熱海市伊豆山で土石流災害となった盛り土は、ただ単に土を盛っただけであり、何らの対策も取られていなかった。

本来の盛り土は国土交通省の求める厳しい安全基準に従い、崩れないように擁壁や排水施設などを設けて土を締めて固める。

ツバクロ残土置き場は、高さ65メートル、長さ290メートル、奥行き600メートルで、トンネル工事で発生する約360万立方メートルを盛り土する計画である。

「川勝理論」では静岡空港も危険だが…

もし、ツバクロ残土置き場を問題にするならば、静岡県が牧之原台地を削って造成した「静岡空港」(島田市、牧之原市)の盛り土のほうの危険性が高いことになる。

静岡空港は高さ約75メートル、総盛り土量は約2600万立方メートルで、ツバクロ残土置き場より10メートルも高いだけでなく、その7倍以上もの発生土を盛り土として積み上げている。

JR東海は、南海トラフ地震などの地震時の安定性について、空港や港湾といった重要インフラの設計で実施されるFEM(有限要素法)を使った動的解析を行っている

この結果、ツバクロ残土置き場計画では、地震時に静岡空港の10分の1以下の揺れの大きさにしかならないという結果を説明している。

南海トラフ地震時のツバクロ残土置き場が問題ならば、大規模盛り土構造物の静岡空港の周辺への影響のほうが大きいことになる。ツバクロ残土置き場と違い、静岡空港周辺には人家等が多数点在するからである。

2022年夏の視察時、JR東海が静岡空港の盛り土を説明しようとすると、川勝知事は即座に、JR東海の説明をストップさせてしまった。