コンビニまで車で20分の限界集落でいかに稽古に励んだのか

白浜は将大さんが小学生時代に習っていた剣道の先生の出身地(田辺市)で、当時よく来ていた。久々に訪れて廃校を含めて改めて環境の良さを気に入って、2017年、ここに就労支援B型事業所「ハピラブ」をオープンすることを決断した。白浜町では最初の廃校活用事例で、介護と福祉の共生社会を根本理念にした。

撮影=清水岳志
将大さん

2人は住まいを完全に白浜に移し、この廃校をさらに活用し、横展開していく。まず、2021年7月に宿泊所として廃校ホテル「Neast Side」(ニースト・サイド)をオープンしたのに続き、8月に就労継続支援B型の障害者就労支援「ハピラブ」を開所。2022年3月には「カフェはぴらぶ」を開店した(現在はメニュー刷新などで休業中)。23年からはハピラブ訪問介護の事業所も正式に立ち上げた。就労支援施設、ホテル、カフェ、訪問介護事務所と事業を広げていったのだ。

写真提供=末永将大
廃校になっていた和歌山県白浜町の旧市鹿野小学校

そして22年夏からは神事や神棚で使うサカキの製作販売も始めた。元は地元の人が作っていたが、その人が病で障害を負って、ハピラブを尋ねてきたのがきっかけで、事業を引き継いだ。

自生するサカキを山に入って採取し、葉の汚れを落としたり長さをそろえて束にまとめたりして製品にする。ここでつくったサカキは京都の祇園祭で使用される由緒あるものだ。新規販売地域を開拓中で、今後、将大さんが手掛ける事業の根幹になるかもしれない。

写真提供=末永将大
サカキ

また、移住支援のアドバイスもする。青森県から剣道をしていた障害者が真理さんのユーチューブの映像を見て問い合わせがあって3月に正式に移住してきた。移住者はすでに4人いて町営住宅、空き家での暮らしを始めている。

この施設は白浜といい地名とは異なり、海辺にはない。海から車でもかなり時間がかかる山の中だ。役場の出張所、派出所、消防の屯所、郵便局もある基幹集落だが、コンビニには20分かかる。

「大阪に出るのは大変です、電車がないので。コミュニティバスは一日に2、3本。電車の接続のいい田辺駅に行くのにも40分ぐらいかかる。高速道路はつながってるんですが……」と真理さんは笑う。

結婚は自ら望んだものだが、剣道エリートの真理さんにとって将大さんとの生活は“誤算”でもあった。

大阪に出てくるには高速を使っても車で1時間半の“限界集落”に住むことになったからだ。都市部の道場での稽古機会が激減し、日々の相手は夫ということになった。

実力がある将大さんも真理さんと同じ超がつく負けず嫌い。勝負形式の稽古が始まると、2時間近くも向かい合うこともある。