このように、驚くほど夫のカミングアウトは順調でした。

私も、友人や職場の同僚の人たちはきっと好意的に捉えてくれるであろうことは予想していたんです。

「仲が良い他人」の立場は身内とは違うわけで、一歩引いた視点や立場から力になってくれることが多い印象です。

なかにはカミングアウトをきっかけに疎遠になっていった友人もいたようですが、たまにしか会わない友人は面と向かって否定的なことはあまり言わないでしょうし、気まずければ自然と離れていくものですしね。

ですが、夫の両親や会社がここまで肯定的に受け取ってくれるとは予想外でした。

実のところ両親の場合は、母親も父親も深くは理解しておらず、トランスジェンダーとは「休日に化粧や女性装をして楽しむこと」くらいの認識だったようで、それで寛大に容認してくれていた、ということが後になって発覚するのですが……。

夫はイキイキと女性化を進め、妻は孤独感に襲われた

またこんなにもすんなりと在職トランスを開始できた当事者は、この当時はあまりいなかったのではないでしょうか。

みかた著、大谷伸久監修『そして夫は、完全な女性になった』(すばる舎)

なかなか職場で理解してもらえなかったり、会社にカミングアウトがどうしてもできず、体の見かけが明らかに女性に変わっていっても、だましだまし男性として働き続ける当事者も多く見受けられました。

こうして夫のカミングアウトや社会への適応が順調に進んでいくほどに、私の精神はだんだんと蝕まれていくようでした。

もちろん周りの皆さんが夫を尊重してくれて、仕事も人間関係も順調なのは私としてもとても喜ばしいことです。

それはよいのですが、これほどまでに周りから理解を得ながらイキイキと性別移行を進めていく夫を見ていると、まるで私一人が夫を認められていないような気持ちになり、「これはもしかして私がおかしいのだろうか」と不安に襲われるようになっていったのです。

社会から一人取り残されていくようで、とてつもない孤独感に襲われるようになりました。

写真=iStock.com/takasuu
※写真はイメージです
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