「重なり合った指紋」まで識別できるようになってきた

2022年までの10年以上、現場の遺留指紋と容疑者指紋DBとの照合で一致した件数は毎年ほぼ2000件台で推移している。

警察庁は2013年、指紋の成分であるアミノ酸を光らせて指紋を見えるようにする装置「グリーンレーザー」を全国に配備した。同庁犯罪鑑識官付技官は「見えなかった指紋が見えるようになった。大きな進歩だ」と話す。

19年には早稲田大学などが共同開発した撮像装置「ハイパースペクトルイメージャー」を導入。この装置を使ってグリーンレーザーで検出した指紋を撮影・解析すると、これまで採取できなかった、複数が重なった「重複指紋」を分離してそれぞれ画像表示させることが可能になる。捜査現場での重複指紋の検出法確立は世界的にも初めてという。警察庁はハイパースペクトルイメージャーについて操作性能の向上を図っており、日本警察の指紋採取能力はいまもレベルアップを続けている。

いまでも「DNAより指紋のほうが強い」と言われるワケ

平成の時代はDNA型鑑定が急激に発展し、科学捜査の分野で存在感を増したが、警視庁の元捜査1課長は指紋捜査になお優位性があるとみている。「DNAが示すのは『容疑者がそこにいた』ということだけ。指紋は犯行状況まで明らかにできる強みがある」。例えば凶器から指紋が採取できれば、握り方と使い方も推測できるからだ。

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警視庁鑑識課の元指紋鑑定官で、約40年間、鑑識課で指紋に携わった松丸隆一は「指紋照合は個人識別の方法として最も迅速かつ確実に、簡単にできる。ルーペ一つでどこでもできるのが強みだ。100年以上の歴史があり、容疑者DBは1000万人を超え、警察の貴重な財産になっている」と解説する。

松丸によると、指紋の照合は瞬間的なものではなく、自分の目で一つひとつの指の隆線の切れ目や分岐点である特徴点を丹念に追う作業だ。「これは間違いなく合う」と判断できたときは、感動や達成感を強く感じるという。

日本の犯罪史上、類を見ないオウム真理教事件に対する一連の捜査の突破口も、目黒公証役場事務長拉致事件で実行犯を特定したレンタカー契約書に残っていた指紋だった。元警察庁長官は「あれで何百通かの捜索令状が取れた。有無を言わせぬ客観証拠だ」と明かす。