23区内すべての繁華街に“死角なし”で設置
警視庁は2009年4月、データの収集や解析を一元的に行う捜査支援分析センターを全国に先駆けて発足させた。防犯カメラの記憶媒体の性能向上に呼応するように、センターの防カメ捜査も進化し、そのノウハウは警視庁全体に浸透していった。
目黒区の殺人事件が起きた2011年の8月に警視総監に就任した樋口建史は捜査の効率化と強化のため、防犯カメラの設置促進とDNA型の資料採取を全庁的に推進した。
署長会議のたびに、防犯カメラが各警察署管内の街角、駅、商業施設のどこに設置されているのかをくまなく調べて地図に落とすよう求めた。さらに管内の地図でカメラが射程に捉えているエリアを斜線でつぶし、白地で残った地域をカバーするため都庁や区役所、商店会にカメラの設置を要請するよう指示した。
樋口が退任後の2018年に警視庁に確認すると、23区内の繁華街は防犯カメラの死角が解消されていたという。
防犯カメラのリレー捜査は、事件が発生すると付近の防犯カメラの画像で疑わしい人物や車両を特定した上で、同じ人物や車が写っていないかさらに周辺のカメラをチェックして逃走方向を絞り込み、追跡していく。
犯人が駅に入れば構内カメラでいくらの乗車券を買ったかが分かるため、次にその乗車券で行ける範囲にある駅の改札のカメラを調べる。写っていれば容疑者の自宅の最寄り駅の可能性があるため、現れるのを待ち構えて職務質問するという流れが一例だ。防犯カメラの設置密度が高い都市部では、確実に犯人に迫ることができる。
元オウム信者の逮捕でも活躍
一方、防犯カメラは善良な市民のプライバシーにも関わるとの懸念の声があり、慎重論も根強かった。犯罪捜査とプライバシー保護や通信の秘密との兼ね合いは常に課題となる。樋口も「人権の抑制を伴う対策の必要性は国民の理解が不可欠。国民の理解と協力がなければ実効性は上がらない。世論を醸成するための努力が非常に重要だ」と慎重論にも理解を示す。
その上で、警視総監だった2012年6月に潜伏していた元オウム真理教信者の高橋克也受刑者を逮捕できたことを例示し、「防犯カメラの画像をリアルタイムで公開したことが大きい。国民の関心が高く、最後は漫画喫茶の店員の通報が決め手となった。防犯カメラが広く受け入れられるきっかけとなり、世論の流れが変わったと感じた」と話す。
警視庁の重要犯罪(殺人、強盗、放火、強制性交等、略取誘拐・人身売買、強制わいせつ)の検挙率は2010年の63.4%からほぼ毎年、数ポイント単位で上昇を続け、21年はついに100%を超えた。この年の重要犯罪の認知件数は1223件で、数字上はこのすべてを摘発してさらに過去の事件も解決したことになる。